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 目を開けると、405号室の前だった。


 下界に降臨(こうりん)すること数百回。

 だんだん精度(せいど)が増すのを感じていたが、ついに目的地に(じか)に着いた。

 おなじ場所をねらい続けていたら、いつかそうなるとは聞いていたが、意外に早かった。


 だってまだ千回に達していないし。

 俺の執着心が強いとかじゃなくて、俺の技術がすごいだけだし。

 天界裁判所(てんかいさいばんしょ)勤めのエリート天人(てんじん)は、無意識下でも優秀なんだ。


 宛先不明の言い訳をならべて、青寿(せいじゅ)はつぶやく。


「きもちわる……」


 セミは景気よくミンミン鳴くし、猛暑にたちまち汗がふきだす――やはり下界はやっかいだ。

 好き好んで住む気持ちはわからないが、下界に降りたまま帰ってこない沙羅(さら)を連れ戻すためなら、何万回でも降臨する。その執着心(きもち)がわからない、と天人仲間に言われたばかりだが。

 

 何はともあれ、ここまで来たからには沙羅と会いたい。

 前回と前々回とそのまた前とその前と……かれこれ一ヶ月以上、顔すら見せてもらえないが。


「もしかしたら今日は、沙羅の機嫌が最高にいいかもしれない」


 セミの合唱は耳鳴りに似て、青寿を現実につれもどす。


「うるさい虫。……俺も同じか」


 むしろ家に入ってこない分、セミの方がマシかもしれない。

 自嘲的(じちょうてき)に笑い、青寿は強くインターホンを押した。






「いらっしゃい、青寿!」


 いきなりドアがあき、青寿は目をみひらく。


 沙羅(さら)だ。

 笑顔だ。

 歓待だ。

 キョウハ、サラノキゲンガサイコウニイイ――?


「俺、言霊(ことだま)の精度まで上がったの!? ああ゛ー! 俺は虫とか言わなきゃよかった!」

「あいかわらず変――元気そうね。まあ、上がってよ」

「沙羅……え? 沙羅だよね? いつも俺を門前払いどころか居留守もふつうに使っちゃう沙羅だよね?」

「やっぱり帰って」

「まってまってまってまって!」


 閉まるドアに、青寿はあわてて足をねじこむ。

 ついでに真っ赤な保冷バックを掲げてさけぶ。


「神戸のワッフルケーキ、季節限定でレアチーズとキャラメルナッツとロイヤルミルクティーが出てたよ! おいしそうで、つい買っちゃった!!」


 無言。のちに、沙羅の舌打ち。

 セミの声よりでかかったが、青寿は聞かなかったことにした。


「……入りなさい」


 しぶしぶ体をずらす沙羅に、青寿の頬はゆるむ。

 第一ミッション、クリア。


「おじゃましま~す」


 人畜無害の笑顔を意識して、青寿は数か月ぶりに玄関をくぐった。

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