魔女の呻きVol:5
驚きのあまり、竜司はお茶が肺に入り、むせてしまった。
「ゲ..ゲホッ!」
咳き込んでしまい、会話は一時中断した。
「だ...大丈夫?」
「い...いえ...急な話でびっくりしまって...。」
峰香の心配そうな眼差しをよそに、
竜司は、息を整えようとした。
「それで...なんで急にそんな話になったのですか?」
仕切り直して、竜司は、改めて、
彼女に真意を尋ねた。
「うん...実は、私の彼は、小さい頃から
母親との関係が良くなくて、それで
女の子と付き合った事すらないの。」
ーー人種は違えど、同じ悩みなんだ...。
竜司は、同じ境遇にある彼女の恋人の話を聞いて、
同情の念が出た。
竜司もまた、母親との関係が歪んでいた。
そして、松田峰香の異国のパートナーもまた、
彼と同じ境遇にいる。
違うのは、その呪縛から抜け出しか、否かだ。
「それで、彼の為にと思って、何度か、
誘ったのだけど、全然ダメで...。」
「キスをしようとしたのだけど、それもダメだったの。」
ーーこれは...。
竜司は、もし、自分が母親との関係を清算しないまま
恋人ができた時の事を考えた。
きっと、同じ事をしてしまっているだろう。
竜司は、彼の夢にも、母親の呪縛があるのは、
想像に難くないと悟った。
「それで、一度、彼が仕事でヨーロッパにいる時、
私、サプライズで会いに行ったの。」
異国の地で、わざわざ愛する恋人が会いにきてくれた、
そういうシチュエーションを作り出したら、
きっと、彼は燃えて、ベッドインできるかもしれない。
そう考えた峰香は、計画を立て、実行した。
「でもね、彼、会ってくれなかったの!」
「私からの連絡はスルーするくせに、
SNSでは、楽しそうな写真を載せていたのによ!」
「もういいやと思って、そこから一人で
観光しながら、お酒を飲んで楽しんだわ!」
「しかもね、帰国後に、ようやく返信きて、
『何だった?』よ!」
当時の事を思い出したのか、峰香は怒り出し、
お酒を飲むスピードが速くなる。
ーーそれでも別れないのね...。
竜司は、ヨーロッパ系の彼氏の問題はさておき、
目の前にいる酒乱の異質さを感じとった。
ここまでの仕打ちをされもなお、峰香は別れようとしない。
むしろ、意固地になって、執着じみたモノがある。
客観的になれば、大切な恋人に対して、
不誠実極まりない態度は、別れる案件だ。
しかし、今もなお、二人の関係は続いている。
いや、そもそも交際しているといえるのかも、甚だ疑問だ。
ーーどうやら...。
竜司は、峰香と偶然にも、鉢合わせした時から、予感していた。
ーー現実世界で数時間後
「来ましたね。」
「はぁ...やっぱりか...。」
竜司は、薄々、感じていた予感が
的中した事に、ため息を漏らした。