魔女の呻きVol:2
「ああいう人はおっかないし、近づきたくないよな...。」
「そうそう、この前も俺の友達が、
あの人の餌食になって、2時間詰められてさ...。」
「マジ!?」
「しかも何日経ってもねちっこくて、困っててさ...。」
ーー生まれ変わっても、関わりたくない人だな...。
竜司は、聞き耳を立てながら、同僚達の会話に同意した。
生きている時代や価値観が、丸っ切り
異なる人との意思疎通は難しい。
大概の場合、認め合う事ができず、反発しあってしまう。
峰香の場合、まさに、その典型的なパターンだ。
自分の価値観、やり方以外を一切を認めない。
彼女のいる職場は、まさに、生き地獄だ。
ーー触らぬお局様に、祟りなし...と。
竜司は、自身の視界はもちろん、脳内からも、
彼女の存在を抹消する事にした。
ーー15分後
ーーなんでここにいるんだよ...。
休憩がてらに、自動販売機で飲み物を買おうとした時だった。
うっかり、恐るべきお局様にバッタリ出くわしてしまった。
ーー飛び火だけは勘弁してくれ...。
竜司の脇から、汗が濡れ始めていた。
この危機的な状況いかんで、今後の彼の
サラリーマンライフが左右されるからだ。
もし、失敗すれば、それこそ、
トラックに突っ込んで、異世界転生する
現実逃避しか逃げ場がないだろう。
ーー痛いのだけは勘弁だ...。
夢の世界を体感している竜司にとって、
その言葉には、実感がこもっていた。
下手に、この場から立ち去っても、彼女に訝しがられ、
ネクストターゲットにされる恐れがある。
ーーなるようになるしかないか...。
「お疲れ様です。」
社交辞令に、営業スマイル、無難な挨拶で
その場をやり過ごす選択肢を取った。
「あら、お疲れ様。」
幸い、峰香のご機嫌は悪くなかった。
ただ、癇癪持ちのお局だ、状況はいつ変化しても
おかしくないので、油断はできない。
竜司は、軽く彼女に会釈し、その場で
水を買い、速やかにその場から退散する
プランを取る事にしたのだ。
だが、儚くも、そのプランは瓦解してしまった。
「見ない顔ね。どこの課なの?」
「松本さんの課です。」
「あぁ、あの人ね。大変でしょう?」
「何とか頑張っています。」
峰香が、竜司に興味を持ってしまった。
思わぬ生じた会話に、竜司は冷や汗をかいていた。
とにかく、この危機的状況から脱する為に、
無難な言葉で、彼女をかわすしかなかった。
「そう。頑張りなさいね。」
そう言いながら、峰香は去っていこうとした。
「はい、ありがとうございます。」
彼女の琴線に触れぬ様に、最後まで、
丁寧な対応をし、危機は去っていった。
ーー危ねぇ...!!
峰香の姿が見えなくなり、竜司は全身から力が抜けた。
ーー明日は我が身...気をつけよう...。
危うく、彼の現実世界での、サラリーマン生活に
ピリオドが打たれようとしていたのだ。
デスゲームが可愛く見える位に、
危機感を、竜司は肌で感じ取っていた。
夢は、仮に死んでも、まだやり直しが効くからいい。
しかし、現実は、夢の様に単純ではなく、
その複雑性がゆえに、すぐには変わらない。
可能な限り、回避できるリスクは避けておきたい。
一人の権力者のさじ加減で、職を追われるのは、御免だ。
一気に、疲労感がやってきた竜司は、その後、
30分長めに、休憩を取る事にしたのだった。
ーー数時間後
「あのね、私の彼氏が...。」
ーーなんでこうなるの...!?
どうやら竜司にとって、本日は厄日の模様だ。




