魔女の呻きVol:1
「あら、すごいイケメン!その鋭い眼がタイプだわ!」
ーー面倒くせぇババァだ...。
全身黒の装束、黒色のサングラスとマント、
オーバーバックの髪型...etc
白色の肌に、180cm超えの身長、
ハリウッド俳優にいるイケメンの白人の
見た目に扮した竜司は、辟易していた。
アラフィフで、自称美魔女の鬱陶しい、
先程から、色目遣いをしてくる熟女を
調教という鉄槌を下す所だ。
「おい...気安く話しかけるな、クソババァ。」
「俺と話したければ...」
「3回周って、『ワン』と言え。」
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時を、現実世界の昼に巻き戻そう。
竜司は、いつも通り、職場で勤務していた。
夢では、魔王候補、現実では、モブキャラ、
異世界の物語風に例えるならば、
竜司は、今、サラリーマンAのキャラを演じている、
陰の暗躍者といった所であろうか。
そんないつもと同じ日常を過ごしている所に、
イレギュラーが発生する。
「これは一体、何なのよ!」
「どうしてそんなミスばかりするのよ!」
先刻から、隣の部署を通して、金切り声が聞こえてくる。
「うわぁ...また始まったよ...。」
「あの人、癇癪持ちだし、周りに当たり散らすよな...。」
竜司の近くの席で、同僚達がコソコソ話をしていた。
現在進行形で、不快感をもたらしている音源の主の事だ。
「マツダさん...あの歳で独身なのもわかるわ...。」
「しかも、自分よりも若い人しか興味がないとか、
まぁ、同年代に比べても、あの人すごい若々しいしさ。」
彼女の名前は、松田峰香、
竜司が所属する職場とは、違う部署にいるが、
彼女の噂は、署内では有名だ。
今年、50歳を迎えた、いわゆる、アラフィフ世代だ。
竜司がまだ生まれて間もない、
もしくは、この世に誕生すらしていない、
バブルの時代を知っている、
いわば、元祖パリピ女子をやっていた。
そこからの崩落、停滞、時代の酸いも甘いも
体験している女性だ。
社内では、キャリアウーマンの先駆け的な存在であり、
あの古田ゆきめも、尊敬していた。
だが、何かの拍子で、突然、彼女は豹変する。
急に、幼稚で、泣き喚く5歳児の様に、情緒が不安定になる。
そのネガティブな感情を職場にいる
メンバーにぶつけ、金切り声を上げるのだ。
しかも、峰香には、地位や実績がある為、
彼女を諌められる、ブレーキ役を買って出る人がいない。
社内では、黙認されている状況なのだ。
彼女の被害に遭った人は、ひとたまりもない。
その結果、毎年、何人もの社員が、
彼女の負のエネルギーにあてがわれて
辞職してしまう例が後を絶たない。
「聞いているの!?」
今日も、彼女の犠牲者が出ている。




