日常Ⅱ:Vol6
夜空に、太陽の光が白みがかった午前5時42分頃、
竜司は、夢の世界から目を覚ました。
「...。」
その沈黙している表情は憂鬱げだった。
「消すしかないか...。」
幸か不幸か、本日は、休日だ。
仕事を言い訳に、アダルト関連の断捨離を
先延ばしにする訳にはいかなかった。
二度寝しようにも、また夢の世界で、
サイコパスな聖女に詰められるリスクもある。
聖女の言葉には、何かしらの根拠がある。
それに加えて、確実に、変化が起きている。
(良い意味でも、悪い意味でもだ。)
もちろん、聖女の話を無視する選択肢もある。
しかし、竜司は、薄々だが、予感している。
ーーこれをやらなかったら、自分ではなくなる...。
つまり、彼本来の使命から逸れ、
いわゆる、外道の末路を辿る未来だ。
マルチエンディングならば、バッド中のバッドエンドだ。
「それだけは勘弁だ...。」
そう部屋の天井に向かってつぶやきながら、
竜司は、しぶしぶとだが、PCに手をつけた。
ーーあぁ!お気に入りの動画が!
ーー素人系!OL系!人妻系!
ーー最近、チェックしてた女優が!
ーーあぁ!!登録したサブスクが!
ーー俺の...オカズ達が...。
竜司の心は、哭いていた。
唯一といっていい、娯楽を失ってしまったのだ。
一つ一つの思い出達を消去する度に、
竜司は、手塩にかけて育てた子牛が荷馬車に乗せられ、
今生の別れをする情景が思い浮かんだ。
「俺は...今後一体、何を楽しみに生きていけばいいのだ...。」
キレイさっぱりと空フォルダとなった
PCのファイル、通知が来なくなった
サイトからのメールやアプリ、
そして、部屋の角やベッド下から消え去った雑誌やDVD...。
ものの見事に、竜司の生活から、エロスが消失した。
四つん這いになり、頭からガックリと
項垂れる竜司だが、サイコ聖女には抗えず、
こればかりはどうしようもない。
「寝る...。」
不貞寝する事にした。
おまけに、自家発電も禁止だ。
本当にやる事がなくなり、逆に目がギンギンに冴えた。
いつまでも寝られないまま、3時間が経過、
朝日が部屋に差し込み、すでに青い空が
広がっている時間になっていた。
「寝ていられるか!」
そう自分にツッコミを入れて、
竜司は、ベッドから飛び起きるや否や、
外出の準備を始めた。
といっても、行く宛もないので、
竜司の住んでいるエリアを散歩して、
身体を疲れさせて寝る作戦に切り替えた。
ーースタスタスタスタスタスタ!!
いつもよりも、歩行スピードは早く、
歩幅も大きくなりながら、竜司は、
アスファルトを闊歩していた。
以前の竜司ならば、休日前は、お気に入りの
アダルト動画の鑑賞に、数時間は勤しみながら、
昇天を迎えるのが、日課だった。
いつも起床すれば、身体は気怠く、そのまま
二度寝、三度寝を繰り返し、気づけば夕方になるのが
お決まりだった。
しかし、その生活も強制的に終わりを迎えた。
今や竜司の性のエネルギーを溜まっている。
言い換えれば、元気が有り余っている。
それを、どう転化すればいいのかもわかっていないので、
じゃじゃ馬に乗っている様なモノだ。
今の竜司は、とにかく身体を動かして、
発散するしかないのが、精一杯だった。
無我夢中で歩き始め、太陽は真上に来ていた。
あてもなく彷徨いながら、歩を進めていた
竜司であったが、ようやく、疲労感が訪れた。
「はぁ...。公園で休もう」
両足のふくらはぎは、これ以上ない程に、張っていた。
普段、運動しない竜司にとって、歩く事は、
プロのランナーが全力でフルマラソンを走るのと
同じ位、負荷がかかっていたのだ。
一度、立ち止まった事で、ドッと疲れが押し寄せてきた。