日常Ⅱ:Vol2
「バカな事を言ってないで、帰りますよ。」
竜司は、淡々と、ゆきめが抱きしめていた
両手を離していった。
「本気だもん...。」
しぶとく喰らいついてくるゆきめだが、
竜司の答えは変わらない。
「酔ったビッ○を相手する暇はない!」
半ば連行していく形で、ゆきめを送り届ける事にした。
「ビッ○で悪かったわね!」
悪態をつくゆきめだが、竜司は、我関せずだ。
ーームシムシムシ...。
シラフの時よりも、彼女の話に踏み込めば
ロクな事にならない事が明白だったので、
彼女の言葉を全て、聞き流す事にしたのだった。
それで、冒頭の駅前の場面に戻る。
竜司は、酔った美女を一人放り出す、
罪悪感を覚えるが、ゆきめに絡まれた方が
はるかに厄介になるので、このまま解散する事にした。
それは、彼女との別れをも、意味する。
もう二度と、ゆきめと会う事もないだろう。
竜司が夢で取った行動が、結果的に、
ゆきめの退社に繋がった。
それは、彼女の中で、何かしらの新たな一歩を踏んだ。
そう捉えてもいいだろう。
悪酔いした彼女を前に、竜司は、感慨深くなるが、
別れのセリフが、思いの外、浮かばなかった。
しばらく、考えていると、ゆきめが喋った。
「付き合ってくれて、ありがとう。」
酔いを感じさせない、意外にも、冷静な言葉だった。
「もう...これで思い残す事はないかな。」
「そっか。」
そのニュアンスは、竜司にもわからない。
彼女にしかわからない、意識の変化であった。
「向こうに着いたら連絡するね。」
「遊びに来たら、案内するし。」
「わかった、福岡に行きたくなったら、よろしく。」
ゆきめの誘いに、竜司は、社交辞令で返した。
「それじゃあね...。」
「あぁ、達者で。」
おぼつかない足取りで、ゆきめは振り向いて、
駅の構内へと入っていった。
すると、突然また、ゆきめは振り向いた。
その顔は、イタズラ好きな子供の顔だ。
ーーイヤな予感しかしないのだけど...。
聖女の時とは、また異なる悪寒が、竜司の背筋を走った。
「ワタシ!竜司くんの事、好きだったよー!!」
歩いていた人達が、ほぼ全員振り向く程、
ゆきめの声が響き渡っていた。
ーー勘弁してくれ...。
注目の的になった竜司は、ゆきめの奇行に辟易した。
「あはは!じゃあねぇー!」
まるで、ギャル時代のゆきめがそこにいる様だった。
ゆきめの姿が見えなくなり、竜司はようやく一息ついた。
「ようやく...終わった。」
一気に、彼の全身に疲労感が襲う。
これで、古田ゆきめの夢の物語に、一区切りがついたのだった。
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ゆきめとの回顧を終えた竜司は、現実に戻り、
ざわついている職場の風景を、眺める。
ーーさて、仕事仕事...。
それらを尻目に、竜司は、自分の席に着き、
業務に就くのであった。
竜司のひとときの日常が戻ってきた。
古田ゆきめの夢は、彼にとって、刺激的なモノになった。
次第に、夢の魅力に惹き込まれ、
ますます、竜司の個性が発揮されていくだろう。
もう、いつもの現実では満足できない、
竜司がそう自覚するのは、そう遠くない未来である。
しかし、彼女の物語は、なんとも酷い続きがあった。
「ここで、緊急ニュースです。」
お昼休憩の時、社内にあるテレビのワイドショーの
チャンネルから流れてきた。
「昨夜未明、博多駅付近で殺人事件が発生しました。」
「被害者は、古田ゆきめさん。」




