天秤Vol:25
「地元って、福岡だっけ?」
「うん。」
「いつ帰るの?」
「来月には辞めて、来週に一度、福岡に帰る予定だよ。」
「そっか、じゃあもうすぐか。寂しくなるね。」
竜司は、ゆきめの話に、あえて、踏み入れなかった。
彼女から漂うかまってちゃんオーラが、
プンプンと、竜司の鼻奥へ臭っていたのもあるが、
すでに、夢で彼女の心底は見えていた。
同じ内容を見たり聞く程、無駄になるモノはない。
竜司は、中高年の武勇伝、恋バナで
何度も痴話喧嘩の話をする内容が嫌いだ。
己の大事な時間などの資源が奪われる感覚がある為、
そういった人間と関わるのは避けている。
だから、今回のゆきめとの会話も軽めに受け流し、
多少の同情を寄せるだけに留めた。
「じゃあ、戻るわ。」
「えっ!話って何だったの!?」
竜司の第六感で、もう頃合いだと感じた。
彼の中で、もう彼女を見定め、納得したのだろう。
竜司は、頬張ったサンドウィッチを食べ終えたら、
余ったコーヒーのカップを持って、帰ろうとした。
ゆきめの方は、そうはいかない。
話があると聞いてついてきたら、
彼女しか話をしていないし、竜司から
まともな内容すら聞いていない。
慌てるゆきめに、竜司は、振り返った。
「あぁ、そんな話だったね。」
「ゆきちゃんの話を聞いてたら、忘れた。」
若干、下を出しながら、茶目っ気を出す竜司だった。
「忘れたって...。」
呆れるゆきめであった。
「まぁ...。」
竜司は、これまでの彼女を決算する様に、言葉を出した。
「バカみたいに働いていたし、帰ったら、
ゆっくり好きに休んでもいいんじゃない。」
「やっと、自分を大事にできるしさ。」
「じゃあ、仕事に戻りますわ。お達者で。」
そう伝え、竜司は、手を振りながら立ち去った。
「バカみたいにって何よ...。」
そうツッコミたかったゆきめだったが、
すでに歩き始めた竜司には届かなかった。
彼女が引っかかった言葉に、どこか既視感を覚えていた。
だが、現実に、竜司に言われた事がない為、覚えがない。
やがて、ゆきめの関心から遠ざかった。
一人残され、外を眺めながら、彼女は
社会の枷から解放されていたのを実感した。
「ゆっくり、好きに...か。」
そう呟きながら、これからの事を思案するのであった。
その表情は、朗らかだった。




