天秤Vol:20
涼太の言葉は、他人行儀だった。
もはや尋問に近く、人間的な情を感じさせなかった。
「いつまでさ、他人の顔に怯えて生きてるの?」
「...。」
涼太の言葉に、ゆきめはダンマリしてしまった。
彼のセリフは、彼女の核心をついたモノだからだ。
元々、関係性は涼太の方が格上という事もあり、
彼女は、言葉を出す事すら困難だった。
ゆきめは、答えられなかった。
やがて、その瞳からは涙が流れた。
「あなたに...何が...わかるのよ...。」
「私は、怖いのよ...。」
「誰にも見らず、見捨てられて、ひとりぼっちになるのが...」
「いつも思うのよ...。これが、夢だったらなって。」
「もう...やり直せないのよ。」
彼女の言葉は、とても悲痛だった。
ゆきめは、誰かと比べながら生きてきた。
そうでもしないと、自分の価値を、感じれられなかった。
存在意義を失う恐怖が、常に、
彼女の潜在意識にまとわりついていた。
誰かの幸せを羨ましがっては嫉妬し、
また、誰かの不幸を笑い、足元を見る、
アンバランスなジャッジを、いつもくだしていた。
それが彼女の外見にも、歪に現れていた。
本来ならば、彼女は、わざわざ人の注目を
浴びるパフォーマンスは、必要はなかった。
派手な格好をする事も、世間一般に求められる
美の基準を身につける事すら、必要なかった。
だが、彼女の心は、儚かった。
幼少期に抱いてしまったコンプレックスが、
大人になっても姿を現す。
ゆきめの身体が成長しても、精神は、幼いままだった。
形を変えながら、同じ過ちを繰り返す。
それが、顕著に出たのが、学生時代だった。
そして、現実世界の彼女は、
そのコンプレックスを誰にも悟らせない様に、
うまく周りの評価を取り込んだ。
小細工を、洗練させたのだ。
ちょうど、ゆきめと涼太の近くに、
ボールペンサイズの小さな天秤があった。
それは、安定を保つ事なく、
両方の秤は、常に、上がっては下がっての
運動を繰り返していた。
端的に、彼女そのものを表していた。
涼太は、彼女の眼の奥、そのまた奥にある心、
本当の彼女に、言葉を投げかけた。
「君は、とても綺麗だ。」
「本当の古田さんは、こんなモノじゃない。」
「いつまで、そうしているつもりだ?」
「お前の人生を誰かに背負わせる、
そんな無責任な横暴が許されるとでも?」
「俺は...そんなのは許さないよ。」
力が込もった勢いで、涼太は、ゆきめを押し倒してしまった。
側から見たら、これからラブシーンでも
始まりそうな場面であったろう。
だが、彼女はその気でも、竜司は違う。
むしろ、逆だ。
「このまま全てを諦めて、流されるがまま?」
「バカなの?」
竜司は、彼女の手を離した。
ーーRRRRR....!
そして、未だ鳴っているスマホの方へ向かった。
「何でよ...!」
「いっそメチャクチャにしてくれた方がラクだったのに...!」
彼女の瞳は、暗い影を落としていた。
もう何が自分にとって、最善の選択だったのかも、
区別も、分別もつけられない程に、迷走していた。
「知るか。」
「他人ばかりを見て、自分を疎かにする
人間を相手にする程、俺は、ヒマじゃない。」
そう言い捨て、涼太は、スマホを手に取った。
もはや、ゆきめの事など、眼中になかった。
「あぁぁぁぁ!!」
ゆきめは、先程、涼太に弾き飛ばされた
銃を拾い、狂乱して、彼に銃弾を放った。
だが、もう涼太はいない。
床に落ちたスマホだけが、そこにあった。




