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天秤Vol:14


------------------------------



それは、竜司の何気ない言葉からだった。



「ゆきちゃんってさ、モテるよね?」



ーーそんな事ないよぉ。



ゆきめは、恥ずかしながら否定するが、

竜司は、スルーして話を続ける。



「それなのに、浮ついた話は聞かないし、

仕事一本の印象だけど、好きなタイプは

どういう人なの?」



竜司は、気になっていた事を、質問した。



「うーーん...。」



ゆきめが考える間、竜司は言葉を付け加える。



「ほら、あそこにめちゃくちゃイケメンな人がいるよね。」



「ああいう人が好みだったりするの?」



竜司が、指差す方向には、

社内でもトップクラスの人気社員、

吉田が、同僚達と談笑していた。



「そうだね、かっこいい人だね。」



「でも...。」



少しの間を置いてから、もの憂げな表情しながら、



「何か物足りないのよねぇ。」



呟く様に、そう答えた。



「ああいう人を、結構、見てきたからさ。」



ーー結構?見てきた?



「引っ掛かる言い方をするね...。」



竜司が、神妙な面持ちで話すと、ゆきめは笑った。



「あははっ!まぁね!」



「私はこう見えて、色々と経験してきたの。」



「はいはい、そうですか。モテ自慢とは良いご身分な事で。」



竜司は呆れ、投げやりな態度になった。



「何よ、その言い方は!」



「凡人のクセに、私と話せるだけありがたく思いなさいよ!」



女王様キャラで冗談めくるゆきめだが、

竜司は、そもそも彼女とは違う世界にいる

住人だと思っている。



彼女の反撃に、全く響かなかった。



(聖女とのやり取りで、免疫がついた影響もあるが。)



「はいはい、わかりましたから、仕事に戻りますよー。」



「ゆきちゃんといる所をみられて、

変な噂を立てられて、陰口を言われでもしたら、

お互いに、たまったモノじゃないでしょう。」



「それは...。」



ぐぅの音も出ない言葉だった。



思わぬ反論に、ゆきめは言葉が詰まった。



竜司は、最初、「こんなキャラだっけ?」と

ゆきめに対する印象を抱いていた。



今では、彼女と過ごす時間が経つにつれ、

その人となりも、ある程度把握し、距離感も掴んだ。



普通の男性ならば、高嶺の花である

ゆきめに、好意を示そうと、少しでも

一緒にいる時間を延ばそうとするだろう。



だが、竜司は、その点、弁えていた。



時間が来れば、頃合いを見て、解散する。



加えて、自分の立場もわかっていたので、

彼女に情でほだされる事もなく、

余計な首を突っ込まなかった。



節々に、ゆきめの打算的な面を感じたからだ。



自分と関わるのも、人畜無害で、

何を言っても大丈夫だろうと、

タカを括る瞬間が、彼女にはある。



先の言葉も、冗談とはいえ、耳触りの良いモノではない。



(よっぽどのドM気質ならば、話は別だが。)



いくらもてはやされていようが、

内容を吟味すると、実は、大した人ではなかった、



そういうパターンが、現実ではよくあるのだ。



竜司にとって、ゆきめはその人物だった。



彼女といる価値を感じなかったのである。



------------------------------



ーーあの時、感じた違和感は...。



きっと、ゆきめは、いつも自信がなかったのだろう。



だから、色々な男性を見てきては、

彼女の条件を満たす人でなければ拒絶し、

いつも、比較し続けてきた。



彼女の秤は揺らぎ、その心は、常に不安定だった。



そこに、王子様の様な山川涼太が現れた。



きっと、自らのコンプレックスを埋めてくれるだろうと。



「私、すごく嬉しかったんだ。」



「涼太くんといると、私、とても安心するんだ。」



「だから、私、涼太くんの事が好き。」



普通の男性ならば、喜んで、彼女の告白を受け入れただろう。



だが、竜司は、見逃さない。



現実の古田ゆきめ、そして、目の前にいる彼女、



作られた愛情に内包された、打算的な理屈が隠されている。



つまり、ゆきめは、コンプレックスの穴を埋め、

彼女の天秤を安定させる為の道具としか

見ていないのだ。



竜司は、彼女のルックスに、惑わされなかった。



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