天秤Vol:13
「私ね、妹がいるの。」
ゆきめは、これまで誰にも言えなかった、
フラストレーションが、口から溢れ出した。
キッカケは、竜司扮する、山川涼太からの好意だ。
彼女の心に、一筋の光が差した。
きっと、彼女は、心からの厚意に接した事がなかったのだろう。
涼太が、彼女を下の名前で読んだ時も、
他の人が避ける場面でも、サンドイッチを
渡してあげたり、
見た目に囚われず、接してくれた涼太の行動に
ゆきめの心に、雪解けが起きた。
だから、いつも慣れ親しんでいる
彼女だけの特別な場所、
屋上で、澱んだ気持ちを、涼太に吐露したかったのだろう。
「この人になら、何を話しても大丈夫。」
小さな確信が、無意識の彼女の心にあった。
それが、屋上への瞬間移動に繋がった。
初対面であるはずなのに、
ここまで、相手の心を開けさせてしまうのは
聖女の言う、竜司の素質だ。
だが、気をつけなければならない。
ターゲットの心が開いてきているという事は、
それだけ相手の感情も強まってきている。
それは、夢の世界が不安定になるのも、意味する。
仮に、相手の感情が暴走や崩壊したり、
精神的な死に至ると、最悪の場合、
夢の世界そのものが崩れてしまう。
慎重に進めたい竜司であったが、ここは、古田ゆきめの世界。
彼女一つのサジ加減で、どうにでもなってしまうのだ。
ヘタに、「落ち着こう」と諭そうものならば、
余計に、彼女の情緒が不安定になり、
状況が悪化する恐れがある。
竜司は、内心、焦りを感じながらも
彼女の話に耳を傾ける事に専念した。
「真面目だし、遊ばないし、私と性格は
反対なんだけど、すごくかわいいの。」
「特に、顔がね、私は一重なのに、妹は二重でさ、
小顔でスタイルもいいし、何を着ても似合っちゃうの。」
「お父さんもお母さんも、妹を可愛がるし、
私はいつも比べられて、ウンザリだったんだ。」
ゆきめは、涼太の前で、とめどない告白をした。
ーー...。
竜司の頭は、とても困惑していた。
ーーあのとびっきり美人の古田ゆきめが...。
現実では、周りから持て囃されている
彼女は、外見のコンプレックスなんて、
無縁の人生を送ってきている、
そう思っていた竜司にとって、
彼女が劣等感を抱いていたとは、
思いもよらなかった。
思い返してみると、彼女が、ギャルメイクで
目立とうとするのも、現実で大学で、
ミス何とかを受賞したり、芸能スカウトの話も...
おそらく、動機は、彼女の劣等感からきていたのだろう。
どれも、見た目が問われるモノだろうし、
それは、おそらく、現在でも変わってはいない。
常に、誰かと比べられてきた(妹と)事で、
逆に、誰かと比較しないと、心が落ち着かない、
それはまるで、天秤の様だった。
いつも、片方に重きが傾いていて、
どうしても、均一の平行にならない。
ゆらゆらと動き続けていて、安定する事がない。
彼女の心のバランスが保てていないのだ。
ーーそういえば...。
竜司は、現実で、ゆきめと過ごした時を思い出した。