天秤Vol:11
ーーうわぁ...人が多いなぁ...。
失われた青春時代をプレイバックするがてらに、
憧れだった学食へと赴いた竜司、
そこは、多くの学生達で、ごった返していた。
「フードコートかよ...。」
ショッピングモールにあるフードコート並みの広さで、
ザッと、数百人以上は座れる机やイスが用意されていた。
パンやおにぎりを販売されている売店もあれば、
券売機でチケットを購入して、キッチンにいる
おばちゃんに渡し、食事を出してもらう形式もある。
予想外の大きさに、竜司は思わずツッコんでしまった。
だが、これも、古田ゆきめが情報のありかを
悟らせない為のフェイクで、実際は、
10分の1以下のサイズなのかもしれない。
それとも、元々、彼女の願望が投影された場所で、
そもそも、食堂自体が存在しなかったのかもしれない。
いずれにせよ、大勢の生徒達の中に入り込むから、
ここでの詮索は、不要な注目を浴びてしまう。
ーー四方八方から視線が...。
おまけに、今は、春田竜司ではない。
アイドル顔負けのイケメンフェイス、山川涼太である。
すでに、外見で目立っている事に加え、
ヘタな行動は、たちまち命の危機に陥る、
危険な場所である事に変わりはないのだ。
一瞬、思索に耽る竜司であったが、
ここは、いちモブキャラとして振る舞い、
学生として青春の1ページを楽しもうとした。
売店を訪れ、サンドイッチを購入する、
その時だった。
「あぁぁ!お気に入りのサンドイッチがないぃぃ!」
ーー聞き覚えのある声が...。
恐る恐る、竜司は、首を横に振る。
声の主は、古田ゆきめだった。
「売り切れなのぉぉ!?そんなぁ!」
ただでさえ、派手な見た目をしているのに、
両手で頭を抱えながら天を仰ぎ、
オーバーリアクションしている姿は、注目の的だ。
しかも、よりにもよって、最後のサンドイッチを
購入したのは、竜司だ。
ーーラブコメとかギャルゲーかよ...。
絵に描いた様なマンガ、アニメ的な展開だった。
ーーふぅ...。仕方ない...。
束の間の休息が終わってしまったが、
彼女の正体を掴むチャンスだ。
ここはイケメンらしく、山川涼太は、アクションを起こした。
「はい、これ。」
涼太は、ゆきめにサンドイッチを渡した。
「えっ...。」
あれだけ騒いでいたゆきめの動きが、ピタッと止まった。
「食べたかったのでしょ?」
「俺は、他のものを食べるから、
ゆきちゃんに、これをあげるよ。」
「えっ...でも...。」
「いいから、いいから。」
差し出されたサンドイッチを前にして戸惑うゆきめを尻目に、
涼太は、半ば強引な形で渡し、他の食べ物を買った。
ゆきめは、急に我に返った様に、涼太に話しかけきた。
「ちょっと待って!」
「いっ...いいの...?」
ーーなんで、私にくれたの?
そう言わんばかりの表情だ。
「ゆきちゃんが困っていたら、助けるものでしょ?」
竜司ならば、小っ恥ずかしくて言えない
セリフを、山川涼太は、言い放つ。
「...ぁりがとう。」
ゆきめは、小声で、恥ずか気に、お礼を伝えた。
「気にしないで...と言っても、気にしちゃうか。」
「気になるなら、お礼じゃないけど、
一緒に、お昼を食べるのはどう?」
追加で、ランチデートも誘ってみた。
(内心、心臓が破裂しそうな竜司であった。)
「うん...。」
急激に、大人しくなるゆきめであったが、
彼女の情報を得る機会が巡ってきた。
竜司は、引き続き、山川涼太として、彼女と接触する。