天秤Vol:10
「それともう一つ。」
聖女にしては、珍しく、甘いニュースを付け加えた。
「夢に囚われた女性を救う度に、現実で、
竜司さんのモテ度が上がっていきますよ。」
ーーなん...だと!?
竜司にとって、夢の世界初のハッピーニュースだ。
女性との縁がなかった彼にとって、
この恩恵は、人生が180度変わる。
ただ、残念ながら、竜司の顔は平凡レベルだ。
ルックスで、女性を惹きつけられないのは、本人も自覚している。
(夢でイケメンに変身できるのは、せめてもの情けだが。)
だが、竜司には、そのハンデを補うに余りある、
天性の人誑しの才能がある。
日本の歴史でいえば、およそ500年前、
血で血を争う野蛮だった、戦国の時代、
血みどろの世界で、ただの農民から成り上がり、
最後には、天下統一までやってのけた豊臣秀吉と同等、
いや、それ以上の人を惹きつけて動かす、ギフテッドなのだ。
ある意味、彼に課された、
この夢の世界の天下統一は、
おとぎ話でも、ホラ話でもない。
すでに、はるか昔の現実で起きた、前例があるのだ。
つまり、決して、不可能ではない。
しかも、当時の時代、秀吉は、非モテ要素0の男だ。
加えて、性別問わず、忌み嫌われていた。
「サル」呼ばわりされ、侮蔑されてきた。
だが、この人物は、才能を発揮し、天下を収めた。
竜司の場合、気が優しい分、
織田信長の大魔王の気質も必要だが、
それだけのカリスマ性がある。
今はまだ、その可能性を秘めた事に無自覚だが、
竜司は、聖女の良い知らせに、胸が躍った。
「今は、母親の壁を乗り越えたので、
0から1になった段階ですね。」
「そこから数字を大きくする為に、
まずは、ゆきめさんを攻略していきましょう。」
竜司は、聖女の言葉で改めて、モチベーションが湧いた。
ーーモテるぞー!モッコリちゃーん!
某シティハンターのスケベ心も、目覚める竜司であった。
「ゆきめさんとのコンタクトは成功しました。」
「次は、彼女の情報を抜き取る事ですね。」
ゆきめとの接触は、うまくいった。
問題は、次だ。
どこに、彼女の機密情報が隠されているのか?
ーー直接聞くのはキケンだろうな...。
竜司は、まず、彼女に尋ねる事を想像した。
「ゆきちゃんの大事にしているモノって何?」
「何?あんた何者?」
ーーパァン!
すぐに、失敗する事しか思い浮かばなかった。
よっぽどのお人好しでもない限り、
易々と大事な情報を教えてくれないだろう。
むしろ、怪しまれて、彼女の夢の防衛システムに始末される。
ーーどうしたものか...。
竜司が頭を悩ませると、聖女がヒントを与えた。
「大抵の場合、大事なモノを隠したい時、
人は、厳重にロックをかけようとします。」
「例えば、金庫は、その象徴として、夢に現れます。」
「また、建物そのものを、迷路の様に複雑にして、
そもそも辿り着けなくする時もあります。」
「いずれにせよ、彼女を追えば、自ずと分かるでしょう。」
ーーなるほど...。
どうやら、古田ゆきめを追跡すれば、秘密の部屋がわかる様だ。
「では、あとはお任せします。」
聖女は、そう言い残し、モブキャラへと戻った。
ひとまず、ゆきめがいないと
話が進まないので、竜司は、教室を出た。
食堂に向かい、束の間の休息を取る事にした。




