日常Ⅰ:Vol6
竜司は、この1週間、特に、古川ゆきめと
時間を、一緒に過ごす事が多かった。
といっても、男女の仲になった訳ではない。
終始、彼女のペースで、話が進み、
それを、竜司は、ただひたすら聞く側に
徹しているのだ。
女性慣れしていない彼にしてみれば、
ゆきめは、雲の上の存在だ。
それこそ、芸能人にいてもおかしくない程の美しさだ。
実際、彼女が街を歩いていたら、
スカウトされた経験もある。
(彼女曰く、興味がなくと断ったとの事。)
ーーなんで、俺みたいな凡人と?
そう思う程、竜司は、彼女との格差を感じていたのだ。
むしろ、自分と関わったら、彼女の方が、
変な噂が立って、迷惑がかかるのでは?
彼女に対して、要らぬ心配をする始末だった。
「いきなり言うのもなんですが...」
竜司は、思い切って、彼女に聞いてみた。
「なんで、自分みたいな人といるんですか?」
「他にも同僚はいますし、何なら女友達と
過ごす時間の方が楽しいのではないのですか?」
かなり攻めた、直球の内容だった。
彼の問いに、ゆきめは、サッパリと答えた。
「気がラクになる...からかな。」
「それに、陰で私の悪口を言う同僚もいるし、
しつこく絡んでくる男もいるしさ。」
「竜司くんは気持ちがまっすぐだったし、
下心も感じなかった。」
ーーあなたに、下心を感じる程、
男としての自信がないだけですけどね...。
心の中で、そうツッコミを入れる竜司であったが、
彼が、下心を覚えるのは、アダルトサイトを観る時だけだ。
それは、事実であった。
彼女の答えに、彼は驚いた所がある。
「意外ですね。」
「だってこれだけ華のある、綺麗な人なのに
やっかみを持っちゃう人っているんですね。」
「しつこく絡む男って、懲りない人なんですね。」
竜司は、つい、素直に思った事を、口にした。
「そうなのー!」
すると、ゆきめは、啖呵を切った様に、話し始めた。
ーーこれは長くなりそうだ...。
竜司は、彼女のスイッチを押してしまった事を後悔した。
だが、この話がキッカケで、彼女との距離が近くなった。
そして、彼女の隠されていた夢、苦悩を知る事になる。
気づけば、お昼の休憩時間が終わりそうになっていた。
「ゆきめさん、そろそろ時間が...」
竜司は、彼女の時間がきた事を伝える。
「あっ!もうこんな時間なんだね!」
「ごめんね、ここまで話を聞いてくれて」
彼女は、自分だけ一方的に、話していた事に
申し訳なさそうであった。
「構いませんよ。」
「ストレスを溜めると、体に毒ですしね。」
竜司は、そうフォローした。
「ありがとうね。話を聞いてくれて。」
「それと、せっかくの仲なんだからさ、
私の名前の呼び方を変えてくれる?」
「同期なんだし、遠慮しなくていいからね。」
ゆきめは、遠慮がちで、他人行儀な
竜司の態度が気になっていた。
「えぇ...」
竜司は、戸惑った。
だが、彼女の願いを無下にする訳にもいかない。
「じゃあ...」
竜司は、一瞬、考えた。
「ゆきちゃん...でいいですか?」
彼女の呼び名を、遠慮気味に、聞いてみた。
「うん...。それでいいよ。」
彼女は、何やら照れた感じだった。
「じゃあ..またね!」
「今度会う時は、敬語もダメだからね!」
去り際に、彼女は、ダメ押しのお願いをしてきた。
「頑張ります...。」
竜司にとって、彼女に、課題を出された様だ。
この様に、彼にとって、夢にも感じる時間を過ごしていた。




