日常Ⅰ:Vol1
「......................。」
ゆっくりと、竜司の目が開いた。
辺りを見渡すと、ヨーロッパの街中のカフェ、
どうやら、深い夢に入る直前にいた場所と変わらない様だ。
竜司は、カフェのイスに座り、
テーブルに突っ伏す形で眠っていた。
深い層の夢世界から、帰還した。
「長かった...。」
開口一番のセリフから漏れたのは、安堵だった。
体感的には、数年いた様な感覚だった。
幼少期に住んでいた悲劇の舞台、
因縁だった母親との対峙、
自身の運命の決着、
ドミノ倒しで、たくさんの濃い出来事があった。
「大丈夫...みたいだな。」
竜司は、実の母親に刺された左肩を触れた。
しかし、刺されたキズも跡もなかった。
流血もなく、意識も、ハッキリとしている。
身体が無事なのを確認した竜司は、戻ってきた事を実感した。
「おかえりなさい。」
彼の横のイスに、いつの間にか、聖女が座っていた。
「終わりましたね。」
どこかで、彼の事の顛末を見届けたのだろう。
彼女の言葉は、つまり、彼の初めての
ミッションが達成、完了したのを意味する。
「気分は、どうですか?」
聖女は、医師の様に、竜司の状態を尋ねた。
「何か、こう...胸のつっかえが取れた気分です。」
竜司は、今まで抑圧されていたモノから解放され、
つっかえたモノが取れて、身軽になった、
己を縛り、大いに恐れていたモノからの解放、
いつも、胸にあった、閉塞感がなくなった。
「少なくとも、鬱々とした感じはありません。」
明確な言葉にはできずとも、竜司は、
自身の身の変化を理解していた。
「そのようですね。」
聖女は、竜司の変化を看取った。
「今回の竜司さんの出来事は、とても大きな変化でした。」
「それは、現実にも、大きく影響を及ぼしています。」
「深層心理の世界で、己の闇に向き合った。」
「その自覚や、悪夢を取り払った事実は、大きな経験です。」
「これからの任務の、良い演習になりましたね。」
ーーこれ...まだ前座なんですか...。
死ぬ思いで、(実際には失血死だったが)
やり遂げたミッションが、まだ本番ではない事に、
竜司は、ガックリと項垂れた。
相変わらずマイペースな、聖女に振り回されるのであった。
「目を覚ますのに、10分弱。」
「深い層の夢では、数時間という所でしょう。」
「悪くは、ないですね。」
ーーあぁ..ここでは、まだそんなだけしか経ってないのね..。
夢の中の時間経過や、すっかり忘れており、
聖女のタイムアタックが、気になった。
「時間が来たので、今回は、この辺りにしましょう。」
「それまでは、現実世界での変化を観察して下さい。」
「では、次のミッションで、お会いしましょう。」
そう言い終えると、聖女は、カチャッと、銃を取り出した。
ーーあっ、強制的に帰されるヤツだこれ...。
竜司は、この後の展開が、容易に、想像できた。
ーーパァン!
聖女は、間髪入れずに、容赦なう、撃った。
見事に、竜司の額のド真ん中に、必中必殺した。
ーーあぁ...戻ったばかりなのに...。
ロクに、余韻に浸れないまま、
竜司は、今回の夢の任務を終えたのであった。




