ファーストミッションVol.20
11/2更新しました。
竜司の母親の半生は、とても不幸であった。
彼女の母親は、いわゆる、毒親だった。
何から何まで、母親の存在を全否定するかの様に、
やる事、なす事に反対していた。
その行き過ぎた抑圧によって、学生時代にグレた。
反抗期は凄まじく、家にあるモノを壊すだけでなく、
壁に穴を開ける程、とても暴力だった。
そして、何度も、家出を繰り返し、そのうち学校を退学、
適当に、働いていた先の職場で出会ったのが、
父親だった。
両親からの猛反対を押し切り、10代で結婚を決めた。
しかも、デキ婚だ。
その時に、身籠もっていた子供が、竜司だった。
しかし、彼の母親もまた、覚める事のない
悪夢に囚われていた、哀れな囚人であった。
彼女は、ろくに掃除や料理など、家事・炊事など、
まったくできなかった。
子育ても、どうすればいいのか分からず、
まだ赤ん坊であった竜司の夜泣きにイラつき、
「うるさい!」と怒鳴る日々、
竜司が成長し、イヤイヤ期に差し掛かると、
彼女のイライラも頂点に達した。
「うるさいって...言っているでしょ!!」
近所にも聞こえる位の罵声に加え、
水で濡らした雑巾で、鞭を打つ様に
暴力を加え始めた。
当然、幼い竜司は、泣き止む筈がない。
むしろ、逆効果となり、余計に、泣き叫ぶのであった。
再び、イライラしては、暴力や暴言を繰り返し...
負の連鎖が、毎日の様に続き、気づけば、
竜司の身体は、キズだらけであった。
母親に怯え、頼みの父親も、我関せずの態度だった。
育児にも、家事にも、非協力的な姿勢の父親にも、
母親の避難、罵声を浴びせる対象であった。
喧嘩は、連日行われ、竜司にとって、地獄の日々だった。
彼の一番古い記憶は、その夫婦喧嘩のシーンなのだ。
竜司にとって、無かった事にしたい、
記憶から消し忘れたい程に、悲惨な日常だった。
そして、惨状から解放されたキッカケもまた、母親だった。
友人からの頼みで、借金の連帯保証人になってしまったのだ。
それから、竜司の目の前から消える様に、蒸発し、
行方をくらまし、父親とも離婚した。
父親は、当然、彼を育てられる能力がないので、
母方の祖父母に預けられる形となった。
母親の方はというと、風の噂では、再婚して、
ショップの店員か何かで、働いて借金を返済していたらしい。
しかし、竜司が、高校生になった頃、
彼女は、交通事故で亡くなった。
トラックとの正面衝突で、即死だったと、医師から告げられた。
まだ、30代後半の若さでの、短い半生だった。
最後に、母親の亡骸を見た時、竜司は、
悲しみも、憂いも感じなかった。
蘇るのは、母親から虐待されていた日々だった。
お腹を痛めて、産んだはずの我が子に
暴力を働き、育児放棄する母親に、
感謝しろという方が、おかしいだろう。
葬式も、淡々と終わった。
竜司にとって、母親は、負の遺産なのだ。
その彼女が、今、この世に未練を残す地縛霊の如く、
竜司の夢の世界に巣食っているのである。
竜の悪夢は、全ては、この母親から始まったのだ。