ファーストミッションVol:19
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まるで地底の底から響いてくる様な、
おぞましい声が、部屋中に響き渡った。
シューベルトが作成した歌曲に登場する『魔王』、
気づいたら魂だけが連れ去られ、家に到着すると、
少年の身体は冷え切り、亡骸になっていた。
無惨にも、その命を横から掠め取ろうとする、
世にも恐ろしい存在、
竜司の母親は、まさに、一瞬でもその隙を見せたら、
スピリットだけを抜き、本体は、もぬけの殻、
つまり、亡骸にせんとする、邪悪なオーラが漏れていた。
それは、言葉にせずとも、十二分に伝わっていた。
全身に鳥肌が立つ程に、気味の悪さを、その身で理解した。
ーーコ..コイツは...!ヤバい!?
もはや、親と子の関係が、とっくの昔に破綻していた
竜司にとって、母親の呼称など、どうでもよかった。
「コイツ」
この言葉だけで、どれだけ彼が苛まれてきたのか、
その裏には、膨大な心の患いが含まれている。
いざ、彼自身の超えるべき者を目前にして、
先程までの勇敢さが、挫かけてきた。
親の前では、意見はおろか、口答えや反論の機会すら、
許されず、暴力で、抑制されてきたのだ。
その忌むべきトラウマが、蘇った。
「わ..た..しの...かわ..いい...む..すこ..」
「ダレ..にも...、わた...さない...から...ネ。」
母親の一言一句は、まるで呪術の様に働き、
竜司を拘束した。
「ココ...なら...もう、ド..コ...にも..いかない...よ..」
「ま...た..いっしょ..に...くらそう...」
また、あの時の生活を再現されるのかと思うと、
竜司の目からは、涙が流れていた。
指一つ、ピクリとも動かせない程に、硬直していた。
視界がブラックアウトし、闇に染まりかけていた。
ーーここは、夢の世界です。
ーー母親は、あなたのトラウマであり、影にすぎません。
天から、一本の蜘蛛の糸が、地獄の底に垂らされたが如く、
寸前の所で、竜司は、聖女からの声で、意識を戻した。
この時、竜司の両目の片方は真っ黒、瞳は緋色に染まっていた。
彼の夢の世界であるはずなのに、
その精神は、母親によって侵食されていたのだ。
それが、脳にまで達すると、母親の支配下となっていた。
もはや、ただの傀儡人形へと成り下がる結末、
かなり、危機的な状況であった。
仮に、現実に戻れたとしても、
一生、親の業を背負い、言い知れぬ不安に
襲われ、不眠症や精神疾患を起こしていただろう。
そして、「生きる価値がない」と、罪の意識から、
自ら命を絶つ、最悪のシナリオが待っている。
全ては、親の圧政という名の、洗脳が始まりであった。