ファーストミッションVol:15
9/29更新しました。
「変わらないなぁ...。」
竜司は、5歳頃から見ていた、
全く変化していない景色を見て、呟いた。
確かに、彼の記憶を、100%再現されたモノになっている。
ひとつの違和感すらも、感じさせなかった。
余談だが、この夢の世界では、
相手に少しでも、異変を察知されてしまうと、
瞬時に、怪しまれる。
体内に雑菌が侵入し、異物だと、即バレてしまうのだ。
たとえば、現実世界で住んでいる家で、使われている
絨毯の生地が、本来ならば、ナイロン製だとしよう。
しかし、夢では、ポリエステル製に、すり変わっている。
当の本人は、普段の意識下では、何の生地で
作られているのか、忘れているだろう。
だが、たとえ、分かっていなくても、
無意識では、どういう素材なのか、詳細まで、
キッチリと把握している。
「ここは、現実でない」
と、すぐに、見抜かれてしまうのだ。
相手の夢に潜入する際、ほんの些細な違いで、命取りになる。
とてもリスクが高く、恐ろしい魔物が潜んでいる様なモノだ。
某異世界モノの話に喩えるならば、
Sランクの最難関任務といっていいだろう。
竜司の場合は、ターゲットの調教、
特殊な内容で、かつ、限られた人のみしか
知られていない、更に難易度が跳ね上がった、
極秘オペレーションの仕様だ。
最終的には、標的の夢をも壊す事になる。
つまり、竜司は、常に、命の瀬戸際に立たされている状態だ。
ここは、夢の世界、
たった一粒のホコリですら、感づかれる。
胃がキリキリしそうな程のギリギリの攻防劇は、
これからの話になるのだが、今は、彼が、
故郷を懐かしむシーンから、再開するとしよう。
竜司は、ふと、隣のブランコに、幼い自分がいた気がした。
それは、幻かもしれない。
彼の感覚では、確かに、その存在を感じ取っていた。
「キャハハ!!それー!!」
ありったけの力を込めて、全身で喜びを表現しながら、
全力で、遊びを楽しんでいた自分自身、
かつて、存在していたが、今はもう、失ってしまった
素直で明るい、純粋無垢な童心、
これは、喪失したモノを取り戻す戦いでもある。
「行くか...!」
意を決したかの様に、竜司は、座っていた
ブランコから、ゆっくりと腰を上げた。
過去を思い返し、逡巡しながらも、ここまで辿りついた。
辛かった事や苦しみ、痛み、悲しみ...
全部、抱きしめて、包んで受け入れよう。
まずは、彼自身を救わなければならない。
遠い昔に、できてしまった傷を癒す為に。
彼のひと時の安息が、終わった。
ここからは、己のダークサイドと対峙する、
旅は、まだ始まったばかりだ。
竜司は、公園を後にした。
そのまま、最初に来た道を返り、
自身に立ち塞がる因縁のマンションに
舞い戻った。