ファーストミッションVol:1
「あぁぁ!!」
雄叫びと共に、上半身が跳び上がる様に、
竜司は目を覚ました。
身体を動かしていないのに、
肩で息をしている程、体力が消耗しており、
額からは大粒の汗が溢れ出していた。
そして、無我夢中に、両手で身体の至る所を触れた。
「生きてる...」
自身の命が確実にある事を確認した所で、
緊張で固まっていた身体が、ようやく緩んだ。
「夢...だったんだよな?」
と、竜司は、部屋を見渡した。
床に転がっているビール缶、空のコンビニ弁当...etc
一通り目視をしたが、寝る直前の状態と
何ら変わりばえしなかった。
少しずつであるが、現実の世界に戻ってきた事を
竜司は、実感しつつあった。
しかし、夢の崩壊と共に転落し、猛烈なスピードで
地面に激突した瞬間の、全身に広がるあの痛みは、
体感として覚えていた。
まるで、本当に実体験をしたかの様にだ。
本来ならば、彼の命は、もうこの世にはない。
それ程、ダメージを負っていたのだから、
当然といえば当然であろう。
しかし、竜司は、夢の世界での体験に過ぎず、
現実には、五体満足の状態で帰還している。
その為、現実の世界で、必死、かつ、生存している、
あり得ない矛盾した経験を共有できる人間は、
彼以外に、まずいないだろう。
もし、そんな事を公表でもしようものならば、
周りから、変人やヤバい奴と認定されるのは、確実だろう。
最悪の場合、違法ドラッグの摂取や
メンタル面の疾患を抱えていると疑われ、
精神病棟へ、強制入院されるだろう。
竜司は、この事は、自分だけの内密にすると決意した。
しかし、不思議な感覚ではあるが、これも、
夢の世界に入った事による、副産物なのであろう。
とても稀有で、奇妙な体験をしたのである。
「それにしても...」
えげつないモノを見聞きしてしまったと、
改めて、夢の中での出来事を振り返った。
聖女との出会い、世界の危機、夢と現実、
男性の絶滅、結婚、調教、魔王...etc
「意味がわからん...」
こうして単語だけを羅列すると、
全く文脈の流れを読む事は、困難である。
受験生が一夜漬けで、脳に詰め込んで、
いきなり試験に臨んでも、無理がある様に、
一つ一つ理解するのに、時間がかかる。
「うっぷ..」
あまり考え過ぎると、脳がオーバーヒート、
胃もたれや胸焼けを起こしそうだったので、
竜司は、考えるのをやめた。
考えても答えは出ないし、ムダだと悟ったあたり、
彼の諦めという名の潔さには、清々しさがあった。
思考をシャットダウンすると、竜司は、ふと気づいた。
「今...何時だ?」