童貞の覚醒Vol:22
2024/3/22加筆・修正しました。
だが、その心理的な拘束は、解かれた。
まるで、永い年月の封印から
目を覚ました地獄の帝王の様に、
少しずつ、力を取り戻していく。
ーーグッ...。
ゆっくりと、竜司は、手を開いたり
閉じたりしながら、感覚を確かめている。
ーーわからん...。
現実と同じ体感ではあるが、
未知の力は、一寸の先は闇。
1歩誤れば、闇に染まるリスクがある。
もし、適切なプロセスを経ず、
無理矢理にでも、心理的な呪縛を
解こうものならば...
ほとんどの場合、犯罪や不正に手を染めるだろう。
爆発寸前の溜めてきたモノを、
いきなり、その全部を一気に解放、
必ず、大きな反動が起き、歯止めが効かなくなるのだ。
その方法が、ダークサイドであれば、
なおさらで、本来ならば、禁書レベルである。
竜司の場合、幾つもの幸運や偶然という
要素が重なったからこそ、堕ちずに済んだ。
いわば、コンマ0%の、天文学的な確率の
アタリを引いたに過ぎない。
それは、奇跡そのもの。
1度ならず、二度はない。
おまけに、聖女というガイド|《監視》がいる。
仮に、彼が間違った事をしようものならば..
ーー考えたくないな...。
その想像すら、恐怖で身震いしてしまう。
だが、心理的なブレーキが、彼にはある。
例えるならば、聖女の存在は、竜司にとって、
核兵器よりも、強力な抑止力となっている。
そして、本当に、才があるからこそ、
聖女は、一見、常軌を逸したアドバイスを
あえて、彼に伝えたのだ。
まるで、毒には、毒を持って制すかの様に。
ーーちゃんとしよっと...。
ちなみにだが、彼が女性を性的に
調教していたイメージは、方法論としては、
あながち、間違ってはいなかった。
むしろ、魔王として君臨するならば、
好みがどうであれ、お茶を嗜むレベルでやれる
器量が、必要になってくるであろう。
ただ、この時は、動機が不明確で、
不純でもあったので、的外れに
なってしまっていただけなのだ。
これらの内容や違いを自覚しない限り、
そのまま目が覚めても、性犯罪者や、
変質者になるのが、オチである。
だから、本人は気づいてはいないが、
竜司は、とても幸運だったのである。
いつか、彼が大魔王としての器に到達した時、
とてつもない、現実の変化が起こるのは、
まだ先の話になる。
RPGゲームのスタートボタンを押して、
彼のステータスの一部を表示するならば、
【職業:魔王(見習い)】
【スキル:調教(レベル1)】
といった所であろうか。
今はまだ、駆け出しの1年生である。
産まれたばかりのヒナで、不完全、赤子も同然。
しかし、その才能は、確実に、芽吹いた。
これは、とある非モテ男子のモブキャラに
過ぎなかった童貞が、聖女との邂逅、
これから出会う様々な人達との遭遇、
そして、無理ゲーだった現実世界を
変えるべく、数多の夢の世界を巡る、
覚醒の物語である。
ーーといった具合だな。
もし、異世界物語があったならば、
この様な表現がピッタリだろう。
竜司は、聖女の言葉を噛み締めながら、
ゆっくりと、頷いた。
「頑張ります。」
その瞬間。
ーーピシッ!
割れた音が、空間全体に響き渡る様に、鳴った。
「時間ですね。」