悪魔の子Vol:12
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「ハァ...。」
バスの中で揺られながら、
竜司の顔は、陰鬱だった。
出発直前、聖女から言われた言葉が、
彼の頭から、離れない。
ーーイヤな予感しかしないのだけども...。
お決まりの聖女のセリフは、
竜司にとって、心当たりしかない、
イヤな直感で、悪寒を感じさせる。
「佐々木家、全員を救おうとは思わないで下さい。」
誰かに手を差し伸べる一方、誰かを切り捨てる、
情緒の強い竜司にとって、重くのしかかる。
スーパーマンの様な全員を救える力がない事は、
竜司自身、分かりきっている。
実際に、手を差し伸べても、拒絶した人もいた。
詭弁で、机上の空論とはわかっていても、
改めて、聖女の言葉は、胸に刺さる。
痛感するのだ。
どれだけ、目の前の人を救おうとしたとしても、
100%報われるとは、限らない。
一人の力は、たかが知れている。
誰を救うか、具体的な内容にまでは、
聖女は触れなかったが、これから挑む
ミッションで、その現実が試される。
考えた所で、仕方がないとわかってはいても、
モヤモヤは晴れず、表情も曇っていた。
「ハァ...。」
現実で、約束した二人の少年を思い出す。
「なぁに、考えているのさ?」
後ろの座席から、リュウジがお気に入りの
コーラ味のキャンディを咥えながら、
ニヤついて話しかけてくる。
「別に...。」
素っ気ない返事をしながら、竜司は、
頭を切り替えて、気になった事を
聞くことにした。
「そういえば、何でまた、姿が戻っているの?」
前回、夢の時は、5〜6年の歳を重ねて、
成長した姿を表したはずだが、なぜだか
また、最初に会った時の年齢である。
「あぁ、コレ?」
リュウジは、スティックキャンディを、
口の中で、転がしながら、竜司の疑問に答える。
「う〜んとね。」
「満月と新月によって、集団無意識の
感情や精神の変化にギャップがあってね。」
「満月だと、フラストレーションや疲労が
ピークになって、幼児退行しちゃう。」
「だから、子供の姿になっちゃう。」
「って、おねぇちゃんが言ってた♩」
「まぁ、知らんけども。」
ーーわかってないんかい...。
聖女の受け売り言葉を、伝言ゲームで
ただ、伝えられただけだが、要は、
インナーチャイルドの姿が出やすい、
その人の幼少期の頃の性格やパーソナリティが
投影されやすいのが、満月。
「逆に、新月は、感情的なストレスを
リセットして、その人の本来の姿を
映し出される。」
「その人の願う、本来の姿が投影されやすい。」
「それが、現実にも反映していれば、
精神的な成長もするし、別の姿になる。」
「でなければ、満月と大した差はない。」
「って、おねぇちゃんが言ってた♪」
「まぁ、知らんけども。」
ーーそれは、わかったから...。
心の中で、ツッコミを入れながら、
竜司は、聖女の言葉を整理する。
まとめると、満月と新月のタイミングで、
人々の感情や精神などの浮き沈みがある。
満月は、疲労やストレスがピーク、
新月は、そのデトックスや浄化、
その月のリズムに対応していく事で、
おそらく、精神的な成長にも関わっているのだろう。
そして、夢の構造や光景も、異なる。
ただし、現実と向き合わなければ、
満月であろうと、新月であろうとも、
同じ悪夢に囚われたまま、
という所である。
竜司の場合、自身や人の夢を通して、
成長を経て、リュウジが二人になった、
といった所であろう。
竜司にとっては、小生意気なガキンちょが
一人増えて、対応が面倒になった気分だ。
だが、夢と現実の変化の連環をおおよそ、理解できた。
「そういう事ね。」
「まぁ、成長期のアグモンが、
成熟期のグレイモンに進化する感じだね♪」
「そうそう、うっかり道を踏み外して、
スカルグレイモンになっちゃったり、
メタルグレイモンになったり...」
「って、たとえが、分かりづらいわ!」
「まっ、ニイちゃんは、ワープ進化して
ウォーグレイモンになるチートコードを
持ってる様なモノだけどね♣︎」
「デジモンの例えから一旦、離れなさい!」
「あと、バトルジャンキーみたいな顔になってる!」
「そんな目で見つめるなよ、興奮しちゃうじゃないか...❤︎」
「ヘンタイか!」
「いやぁ、それほど...」
「褒めてねぇからな!?」
その様な、たわいもないやりとりをしている内に、
スクールバスは、目的地へと到着した。