表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/370

日常Ⅴ:Vol4



最後に会ったのは、およそ10年前、



だが、竜司が物心ついた時から、

脳裏に焼きついて離れなかった。



トラウマ、ストレスの根源であり、象徴。



たとえ、物理的に、距離が離れていようが、

どれだけの時間が経っていようが、関係ない。



忌々しき因縁の相手、父親である

春田光の突然の来訪であった。



「よぉ、久しぶり。」



「事故で、入院したんだってな?」



軽々しく分かりきった口調に加え、

ニヤけた表情は、竜司の不愉快を誘った。



タバコを依存レベルで吸っている影響で、

しゃがれている声は、ノイズに等しく、

騒音被害で訴えたい程である。



久しぶりに聞く父親の肉声は、

トリガーが弾かれた様に、過去の苦々しい

思い出が蘇り、自然と、竜司の眉をひそめた。



ーーどこで知った...?



父親との軋轢の感情よりも先に、

どこから、一体、竜司の情報が

漏れてしまったのかが気になった。



しかし、その疑問は、すぐに解消された。



竜司の勤める会社が、本人に何かあった時の為の

緊急連絡先が、父親の携帯番号にしていた。



おそらく、会社が、光に知らせたのだろう。



この便利になった世の中になってなお、

ガラケーを使っており、連絡先の番号も

一切、変えていない。



仕方ないとはいえ、予想だにしない、

久しぶりの親子の再会であった。



だが、次の光の言葉が、竜司の現実に、

ナイフで、突き刺す様に、突き付ける。



「バイクで転んだとか、とろいなぁ。」



実の息子に、心配や配慮の素ぶりを見せない。



むしろ、事故を起こした事に対して、

バカにした口調で、愚屯だ、不肖だと

罵る様に、誹謗中傷をしてくる。



ーー死体蹴りも甚だしいわ...。



オンラインの対戦ゲームで、

負けた相手に対して、攻撃や煽りの

ポーズを決める、敬意を欠いた行為、



それを今、公の場で、しかも、恥も外聞も

気にせず、平気で、光はやっているのである。



これを、20年以上だ。



竜司が生まれ、言葉を理解してきた頃から

行われてきており、プラス、暴力もあった。



まさに、鬼畜の所業である。



ヘタをすれば、どこかのタイミングで、

心が壊れてしまってもおかしくなかった。



むしろ、命を自ら絶ってしまう悲劇だってあり得た。



竜司は、父親のわずかな言葉から、

芋蔓式の様に出てくる記憶と共に、

凄惨な環境で育った事を、自覚した。



ーーほんと、よく生きていたわ...。



ほとほと、心からの実感するである。



「黙ってばかしいるけど、なんか喋れよなぁ。」



土足で、他人のパーソナルスペースに

踏み込んでくる面の皮の厚さも健在だ。



ここまでくると、畜生も三下も、清々しい。



以前の竜司ならば、このまま光の言いなり状態で、

返す言葉もなく、ただ項垂れるしかなかった。



何か言えば、すぐに拳や口撃が、飛んできて、

非力なリュウジには、反撃や抵抗が叶わなかった。



「...。」



竜司は、光の言葉を無視して、改めて、

父親だった”アイツ”の姿を眺めた。



ヨレヨレの茶色と緑が濁った様な

シャツとズボン、年齢を重ねた事よる

顔全体にに深く刻まれたシワ、



くすんで、垂れた黄色顔、生気を失った瞳、



枯れた雑草の様に萎びた白髪、

痰の混じった咳をしながら竜司に

話しかけてくる人物、



ーー弱っ...。



かつて、竜司を支配していた、恐怖の象徴だった

春田光は、もう見る影もない程、退化していた。



ただの、余命いくばくもない、高齢男性であった。



思わず、竜司は、そう心の声を漏らしてしまう。



むしろ、これまで、過剰に怖いと思っていた

自身が恥ずかしく感じる程であった。



そして、竜司は、見ている現実が、

新たに変わった事を、理解した。



ーーもう、あの頃の”アイツ”はいない。



客観的に見れば、子供の頃に根付いた

ネガティブな感情やトラウマが、鎖の様に

縛られていて尾を引いていた話だ。



その解消に、多少の時間を要した。



だが、試練は、竜司を、別人へと生まれ変わらせた。



父親の姿を前にしても、小馬鹿にされても、

不思議と、恐怖も不安も感じない自分がいる。



そこに秘められているのは、強いハートと勇気だ。



「おいどうした?何か...」



なおも、かけてくる光の声が、遮られた。



「うるせぇな。」



そして、始まる。



「黙れ。その薄汚れた口を慎め。」



「さっきから恩着せがましいんだよ、老害クソジジイ。」



「誰が、いつ、カスみたいな見舞えっけんを許可した?」



「テメェの様な、親を名乗る資格もねぇ

犯罪者が、父親ヅラしてんじゃねぇよ。」



害虫ゴキブリオヤジが。」



その現実を殺すべく、竜司リュウジが、狼煙を上げる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ