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日常Ⅴ:Vol2



「さて、今後のミッションですが、

満月と新月のみの日とします。」



いつものクールな表情に戻った聖女は、

話題を変え、次のミッションの時期を伝えた。



「理由ですが、この2つの時期は、

人間の感情の不安定さがピークに達し、

また、心の移り変わり目だからです。」



「つまり、その人物の隠されていた

本性が現れ、夢の潜入も容易になります。」



ちなみにだが、今回、竜司が事故に遭った日は、

ちょうど、新月のタイミングであった。



「ホッ...。」



竜司は、ひとまず、見通しが立った事に安堵した。



いつ、どの日に、また夢の世界へと

強制転移されるかわからないので

気が気でならず、休まらなかった。



それが、次回から、1ヶ月に2度、

特定の日のみに、任務が行われる。



ある意味、夢と現実の区別、オンとオフの

バランスが取れるので、竜司には朗報であった。



加えて、現実の竜司は、大ケガを負っている状況だ。



治療に専念できるのも、有難かった。



おおよそ、新月と満月の間隔は、2週間である。



次の満月まで、竜司は、治療とリハビリに専念できる。



ーーPPPP!



聖女が座っていたベンチから、

スマホの着信音が聞こえてきた。



すなわち、現実へと帰還する時である。



「では、満月にお会いしましょう。」



聖女が、そう告げた後、竜司は、

ベンチへと向かい、スマホを手に取った。



表示されている画面をタップする直前、



「忘れないで下さいね。」



いつもの様に、姿を消す事なく、

聖女が、竜司に声をかけていく。



「現実世界に戻っても、竜司さんの価値や

評価が損なわれたり、失われたりはしません。」



「これは、他の誰でもない、竜司さんの物語です。」



「竜司さんの心が感じるままに、

これからの物語を奏でて下さいね。」



竜司の心に、脳に、全身にまで行き渡る

とても澄んでいた、美しい言葉であった。



ーーヤベッ...!



竜司は、思わず涙腺が緩み、

また泣きそうになるのを、今度は堪え、

星空を見上げながら、画面をタップした。



それを見守るかの様に、聖女は、

背中越しの竜司を見送るのであった。



「よかったのですか?直接、見送らなくて。」



現実世界へと戻り、姿を消した竜司の

そばにあったベンチに腰をかけている

人物に向けて、聖女が声をかける。



「...べつに。」



プイッと、顔を背けるリュウジがいた。



その姿は、母親に宥められて、

バツの悪い顔をした子供である。



「アイツは、俺にとって、宿敵だ。」



「だから、次に顔を合わせても、

俺の取る選択は変わらねぇ。」



「ただ...」



リュウジは、見据える様な眼差しで、顔を上げる。



「俺は、変わらなきゃいけない。」



「新しくならなきゃならない。」



「アイツに追い越されるのだけは、死んでもゴメンだ。」



「この屈辱は、1000倍にして返してやる。」



そう宣言した、リュウジの前髪に隠れて、

黒みがかっていたエメラルドグリーンに

彩られた瞳には、竜司と同じ変化が起きていた。



美しく、小さい星々が散りばめられて輝いている。



「そうですか。」



ーークス。



聖女は、意地を張ってはいるが、

健気なリュウジに、微笑みを浮かべる。



「たっちゃんが、竜司さんと、

次に会う時が楽しみですね。」



「フン...。」



からかっている様にも聞こえる

聖女の言葉に、リュウジは、

鼻を鳴らして、そっぽをむく。



「次も、容赦しないから。」



「にぃちゃん。」



ーークスクス。



最後に、年頃の少年らしい反応を見せる

リュウジに、聖女は、静かに笑うのであった。












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「えぇそうです!事故が起きまして...!」



「バイクを運転していた人が...

私の車を避けようとして、スリップして

横転してしまって意識が...!」



「...。」



遠くから、焦りを隠せない男性が、

気が動転しながらも、スマホで、

どこかに連絡の電話をしている。



その声が耳に入ってくるのを感じながら

竜司は、ゆっくりと、瞼を開いた。



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