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日常Ⅴ:Vol1



「これは...?」



サイコ的な聖女の行動に、

毎度の如く、巻き込まれる竜司だが、

特段、視力に異常はなかった。



視界も良好、周りの景色に変化もない。



キラキラ煌めく瞳以外、変わりがないのである。



「いずれ、分かりますよ。」



聖女は、含みのある、匂わせ発言をする。



「強いて挙げるならば、現実でも夢でも、

その人が、人間かどうかわかる様になります。」



ーー余計に分からんし、何を言っているんだ...?



ヒントを与えられた事で、

むしろ、クエスチョンマークが

脳内に広がるだけであった。



「おいおい、相手の分別がつきますから、

あとは、その目で確かめてみて下さい。」



ーーよく分からんが...。



ーー新しいスキルが手に入ったと思えばいいか。



今、竜司の腑に落ちる範囲でいうならば、

試練を乗り越えた事による、恩恵として、

新たな力を手にしたと、納得する事にした。



「今回の試練ですが、」



月に照らされた幻想的な聖女に、

惹かれそうになるが、竜司は、

本題に入った話に意識を集中させる。



「一言で表すならば、『生まれ変わり』です。」



ーー生まれ変わり...?



その言葉は、竜司にとって、他人事ではない。



夢の中で、ある意味、何度も、

命を落としては、現実の自分自身に

転生する様に戻ってきている。



その繰り返しを経て、今日に至っている。



そして、ついさっきも、凶刃に斃れた。



しかし、今回の試練は、やり直しの効かない、

リセット不可の一発勝負と聞いていた。



その疑問に対しての回答も、明確であった。



「現実世界で、竜司さんは、事故に遭いました。」



「大きなアクシデントによる事故や事件は、

その人の人生のターニングポイントとなります。」



ーーじゃあもうあの事故の時点で...。



試練は、すでに始まっていた事になる。



「極端に言えば、古い自分を捨てる、

それこそ、これまでの自身を殺せるか?」



現実で、大きな事故や事件に巻き込まれた、

もしくは、起こしてしまった人は、潜在意識の

深い世界でも、同時に、大きな変化が起きている。



強制的に、人生の方向性や運命に、

大きな修正が入る、といった所だろう。



タイムパラドックスの様に、

それまでの人生という歴史が改変される

レベルでの出来事なのだろう。



そして、それを受け入れられるかどうか、



大きな運命の岐路に立たされる事になる。



「結果的に、竜司さんは、過去の因縁、

父親はもちろんですが、たっちゃんという

昔のご自身との決着をつけました。」



「その身を持って、運命を変えましたね。」



聖女の言葉は、愛に包まれていた。



「普通の一般の人には、できやしません。」



「昔の過ちや後悔などを認めてしまったら、

否応にも、現在を変えざるを得ません。」



「だから、凡人にはできないのですよ。」



「竜司さんの一番の強みは、自分を

変えられる勇気がある事ですから。」



「それは、とても誇って良い事です。」



ーーここまで褒められると、逆に怖いのですけども...。



ポジティブな言葉を親にさえ、

かけてもらった事のない、竜司は、

くすぐったい気持ちになった。



一方で、あの聖女から、かけ値のない評価に、

畏怖の念を感じているのであった。



「素晴らしい偉業ですからね。」



「これで晴れて、竜司さんの

本当の物語が始まりました。」



「私も、今後が楽しみになりましたよ。」



ーーフフフ...。



聖女が初めて、竜司の前で笑った。



その笑顔は、竜司の人生の中で、最も眩しかった。



こんなにも、自分へと向けられた、

屈託のない笑った表情を見た事がない。



心は解放され、融解される感覚すら覚える。



これまでの苦労が報われた様で、気づけば、

竜司の頬からは涙が流れていた。



ーー今日は、泣き虫だな...。



流れてくる涙を、止める事はしない。



初めて流す、喜びの涙。



ーーアイツも、こんな気持ちだったのかもな。



泣きながら、想う。



誰かに評価される事も、認められる事も

なかったが、今、竜司は、初めて気づく。



聖女という第三者からの正当な評価、



そして、自分自身を赦し、向き合い、

自身の価値を認めてあげた事。



ーー遅くなったけど。



姿は見えないが、きっと、どこにはいるだろうし、

この声は届いているだろう。



ーーただいま。



我が家に迎え入れる様に、自身を受け入れる。



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