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星那《せな》Vol:21



客観的に見ると、まず、竜司が

クマに勝つ可能性は、絶望的だ。



スピードやパワーなど、積まれている

エネルギーは、天地の差がある。



熊が、軽く手を振るうだけで、

当たり所が悪ければ、即死だ。



圧倒的な力の差がある事は、歴然としている。



だが、竜司は、気づく。



あの巨体が、全く、反撃のそぶりを見せてこない。



敵意は相変わらずであるが、

何らかのアクションを取らないまま、

立っているだけの状態である。



すでに、熊とは、ほぼゼロ距離にいる。



竜司が、懐まで突っ込んできても、

この肉食生物は、何もしてこないのだ。



ーーこれは...!



竜司は、初めて、熊に触れた。



しかし、全くの手応えがない。



竜司の攻撃が、という意味ではなく、

熊の力を、何も感じられなかったのだ。



5mオーバーの巨体とは反対に、

ペーパー装甲の様な薄っぺらさだった。



圧倒的な野生の力に、ねじ伏せられる

気配も存在感も、消え失せてしまっていた。



「うぉ!」



あまりの熊の軽さに、勢い良く突っ込んだ

竜司は、前のめりに倒れそうになる程の

バランスを崩してしまった。



何とか堪えた竜司は、そのまま、

テーブルを熊に喰い込ませて押し切った。



熊は、無力なままに、体ごと、

大の字になる様に、倒れ込んだ。



「弱っ...。」



あっけなく、制圧してしまった事で、

これまでビビって、逃げていた自分自身が、

滑稽で、恥ずかしさを覚える始末である。



「こんなヤツに...。」



逆に、怒りすら湧いてくる。



ハリボテの身体だけを取り繕って

その実は、カラッポであった。



まさに、彼の父親という人間像を現していた。



「グォ...。」



竜司の下敷きになっていた熊が、

か弱い声で、呻き声をあげている。



ーーゲシッ!



「その醜い声を、二度と俺の耳に聞かせるな。」



半ばやつ当たりで、竜司は、

熊の頭を蹴り飛ばした。



一度、本性がわかれば、対応はシンプルである。



たとえ、動物の鳴き声であろうと、

変異した春田光の一挙一動は、不快であった。



どちらが、立場が上か、格の違いを

わからせる為に、竜司は、罵った。



それ以降、熊は、ピクリとも動かなくなった。



「学習はした様だな。」



「童貞にしては、上出来じゃねぇか。」



リュウジが、仰向けになっている

熊の胸に、踏みつける様に乗ってきた。



「童貞で、結構。」



「わかってたなら、お前がやればよかっただろ。」



竜司が、すでに正体を見抜いていた事に、

呆れながら、小言を言う。



「いつまでも進歩のない童貞と一緒なんぞ、

何も得がねぇし、見ている暇もねぇよ。」



「能無しでも、脳みそがどこについているか位、

わかってねぇと、こっちが迷惑なんだよ。」



眉ひとつ動かさず、手厳しいコメントを

言いながら、リュウジは手に持っていた

ショットガンの銃口を、熊の心臓に当てる。



ーーダァン!!



間髪入れず、感慨に耽る事も、惜しむ事もない。



リュウジにとって、ただ、淡々と、

やるべきタスクを遂行する様に、撃った。



春田光だった熊は、一度、赤眼を見開くと、

その後、両目を閉じ、動かなくなった。



彼にとって、かつて、父親だった

春田光は、赤の他人であり、情けも

容赦もかける対象ではない。



「じゃあな、出来損ない。」



息の根を止めた事を確認すると、

リュウジが、ぶっきらぼうに、

別れの言葉を告げる。



「オレは...。」



何か言いかけたが、言い終える事はなかった。



ギリッと、歯を噛みしめ、拳を潰す様に

握り締めながら、険しい表情で、俯いていた。



ーー終わった...。



竜司は、その一部始終を見届けると、

今度こそ、試練の終了と思い、一息つき、

その場に、座り込んだ。



ーーこれで...。



長年、因縁であった父親との関係に終止符、



正確には、まだ、現実に戻った後にも

話は続くが、ひとまず、区切りがつき、

竜司の心のわだかまりは、解消された。



「何、勘違いしているんだ?」



「これで終わったと思ったか?」



「だから、ボケた顔の童貞なんだよテメェは。」



「消えてくんねぇかな、マジで。」



試練は、まだ終わらない。



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