星那《せな》Vol:20
ーーピシッ!
「なんで空いているのよ!」
家の中に非難したはいいものの、
屋敷の広さが災いしたのか、
ほぼ一面が、引き戸式の窓ガラス、
しかも、所々、ドアが開いていたのだ。
竜司は、急ぎ足で、閉じて施錠し、
襲撃に備えていた。
ーーグォォォォ!!!
全てのロックが完了したタイミングで、
人喰い熊が、屋敷の庭に侵入し、
縁側の廊下に入ろうと伺っていた。
吠えた振動の音波で、窓や扉が、
ビリビリと痺れる様に、轟いている。
ーーちょっとは時間稼ぎに...。
竜司の期待とは、裏腹に、四足歩行の
獣は、突如、立ち上がった。
「えっ...!?」
まるで目の前に、巨人が現れた様な
巨体に気を取られる間もなく、5m超えの
体を揺らしながら、熊はドアを開けたのだ。
「マジかよ...!」
いとも簡単に、扉をこじ開けて、
付け焼き刃のセキリュティは崩壊、
もう、竜司との距離は、10mも満たない。
詰む、一歩手前の極限の状況である。
目の前にいる肉食獣は、涎を垂らしながら、
赤い両目で、こちらをロックオン状態、
狭い空間であるから、逃げ場もない。
「どうす...!?」
考える暇もなかった。
猪突猛進、そのまま突っ込んできたのだ。
ーーあっ...やば...これ...詰んだ...。
スローモーションで、迫り来る獣の姿が
目に映った竜司は、己の終焉を実感した。
「お前らのごっこ遊びに付き合ってたら、
退屈過ぎて、死にそうになるわ。」
ーーえっ...?
ゆっくりと動く景色の中、
熊の顔面、正確には、開いた口に目掛け、
テーブルが、突如、ぶち込まれた。
その直後、リュウジが、視界にカットイン、
フルスイングで、熊をぶっ飛ばした。
ーーギャフン!
熊は、予想だにしない、死角からの
奇襲に反応できず、テーブルを
顔にめり込ませながら、倒れた。
リュウジの方は、相変わらず、
クールな装いであるが、「この野郎!」と、
ぶっ倒す気が、満々の表情だった。
「お前...どこから...。」
「だから、かったるいんだよ。」
竜司の質問に答える事なく、
リュウジは、近くのリビングにあっただろう
テーブルを捨て、言葉を吐き捨てる。
「あんなもんに支配されているから
テメェは、いつまでも童貞なんだよ。」
ーーいや、お前もそうだろ...。
そうツッコミを入れたい所だったが、
ここはグッと、堪えつつ、大人として、
竜司は、胸に閉まった。
「ワンキルで、終わらせるぞ。」
ーーいやもう、1ターン使っているんじゃ...。
ここも、グッと、茶々入れを堪える竜司であった。
「お前、ビビってるんだろ。」
ーーグッ!
今度は、痛い所を突かれた。
克服したとはいえ、まだ心のどこかに
苦手意識を払拭できていなかったのは事実だ。
「アイツは、クソ親父の風下にも置けない
社会のゴミ溜めの様なクズ野郎だ。」
「そんなクズに、日和るバカがあるか。」
「アイツに、そんな力はねぇよ。」
「惑わされてんじゃねぇよ、バカ童貞。」
貶しているのか、激励しているのか、
リュウジは、そんな竜司に含蓄のある
言葉を伝えた。
「逃げるな。」
「背中を見せたら、狙われると思え。」
「このまま、押し切って終わらせるぞ。」
再び、リュウジは、ショットガンを装備していた。
竜司は、まだ、彼の真意を理解しかねているが、
どうやら、攻勢に出た方が良いのは、確かだ。
ーーグォ...。
倒れていた熊が息を吹き返す様に、立ち上がった。
「まだ立つのかよ...。」
先程の強烈な一撃が効いたのか、
声は弱々しいが、まだこちらへの
敵意が剥き出している。
「あぁ!もう!好き放題言いやがって!」
竜司は、開き直った様に、声を上げる。
「これで倒せなかったら、恨むぞ!」
「フン...あとで仰ぎ崇めるんだな。」
軽い言い合いの後、竜司が、先んじた。
熊にめがけて、タックルする様に、
事前に、テーブルを持ちながら、
突進していくのであった。
ーーどうにでもなれ!
という闇雲な心境であったが、
この直後、竜司はある異変を感じ取った。
「あれ...?」