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星那《せな》Vol:16



ーーギリィ...。



リュウジの指の間から、血が滴り落ちている。



拳は、強く握り締められ、

目を大きく見開き、今にも、

飛びかかりそうな勢いだ。



竜司も、憎しみのスポットライトが

当てられている張本人を目視した。



「テ...」



竜司も、瞬間湯沸かし器の様に、

怒りのボルテージが頂点に達しかけた。



しかし、リュウジの事もあるし、

ここで、感情的になれば、視野が狭まり、

いざとなった時の行動が取れなくなる。



寸前の所で、ふと我に返り、冷静に努める。



それ程、視界に入れた瞬く間に、

二人のリュウジの琴線に触れる人物、



「なんだ、お前か。」



かつて、父親と呼んでいた者が、第一声を放った。



タバコの常習からくる枯れた様な声、

眼鏡をかけた目は細く、顔や手など、

全体的に、皺の目立つ還暦の年代、



身長は、竜司達と4〜5cm低いが、

どこか、彼らの面影を感じさせる。



「クソ親父が...。」



リュウジは、憎々しげな言葉を吐いた。



竜司自身も、言葉にはしないが、

全身から、不快感を覚えていた。



先程の温泉で味わっていた快適さが、

ゼロどころか、マイナスへと変わった。



ーーやっぱり、アイツか...。



予想が的中した事も相まって、

竜司は、苦虫を潰した様な表情だ。



春田光、便宜的には父親であるが、

竜司達にとって、とても因縁深い相手である。



特に、リュウジの年代の頃、



思い出される、数々の暴力、暴言...etc



喫煙も平気で、成長期の子供の前で行い、

常に、家の中は、タバコ臭かった。



帰宅すると、いつも家に、緊張感が走る。



何をされるかわからない恐怖、



そして、仮に、こちらが勇気を持って、

声をかけたとしても、圧を感じさせる。



時に、殴られ、時に、心無い言葉をかけられる。



幼いながらに、信頼も、安心も、

愛情さえもない、黒い人間だと感じた。



小学校時代、上級生からのイジメにも

まともに、取り合ってくれなかった。



高校、大学への進路の際、

リュウジの志望に、何かと

イチャモンを付けてきた。



極めつけは、母親との絶え間ない喧嘩、



家庭崩壊そして、離婚、一家離散、



子供の頃の家族の思い出は、

ネガティブな映画フィルムしか、

竜司達には、流れてこないのだ。



ましてや、家族が全員揃って、テーブルを囲い、

楽しんで、食事をした記憶すらない。



親ガチャでいえば、大失敗、



あるいはクジを引いたら、大凶、

災いそのものでしかない。



就職を期に縁は薄くなり、

10年近く、会っていない。



しかし、それでも、竜司に降りかかった

負の遺産は大きかったのだ。



もはや、竜司にとって、同じ血、

遺伝子を持った人間とも思いたくない。



法律上の戸籍、医学的、生物学的には、

春田光は、便宜上の父親、ではある。



ただ、それだけの事だ。



竜司は、もう、そういう風に割り切っている。



末代までの恥で、虐待も平気で行う、犯罪者だ。



未来を潰そうとした、コイツだけは、許さない。



ーーバキッ!



気づいたら、竜司は、光を殴っていた。



思いっ切り、右手の拳で、顔面へとワンパンである。



現実では、イエスマンで、返事するのも

やっとだった、あの父親に、一矢報いたのだ。



自分でも、驚いた。



何もできなかったあの時、

救う事ができなかった自分自身を。



今、生まれてから数十年の時をかけて、

彼が囚われていた輪廻から抜け出す。



その一歩を踏み出す事が、できたのだ。



リュウジも、突然の竜司の行動、

目の前に起きた現象が、読めなかったのだろう。



驚き、一瞬、気が抜けた。



光自身も、何が起きたのかわからないまま、

後方へと、吹っ飛ばされた。



ーーバン!ガシャーン!



その衝撃で、障子や、仕切り壁が薙ぎ倒されていく。



「なっ...殴った...?」



「親父にも、殴った事ないのに...。」



逆アムロのセリフが言える事もまた、

彼には、精神的な余裕があるのだろう。



「お...ま..え...!」



痛みに耐えながら、光が立ち上がってきた。



実の息子から、よもやの殴打だ。



驚きを隠せない中、ご立腹な様子なのも伺える。



ーーバキッ!



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