星那《せな》Vol:14
「フワァ...眠い...。」
外聞も恥もなく、年甲斐もなく、
時間どころか、試練すらも、頭から忘れて、
ハジケながら、遊んでしまっていた。
リラックスできた竜司は、
部屋に戻ると、布団の上にダイブすると、
一気に、眠気がやってきた。
ちなみに、リュウジとは、別部屋である。
ーーもういい!
そう捨てセリフを吐きながら、
先に温泉を上がったリュウジは、
そそくさと、部屋に戻っていった。
10畳分の広さのある和式の空間、
窓の前に障子があり、開けると、
山々の景色や温泉の流れる川が見える。
川のせせらぎ、山から聞こえてくる葉擦れ、
自然の心地よい音楽が、より睡眠を誘う。
大の字になって天井を見つめながら、
竜司は、ここまでの出来事を振り返った。
ーー生死を彷徨い夢の最深部、
もう一人の自分の成長した姿、
神聖な霊山での試練...。
まだ、試練が牙を剥いて襲ってきた訳ではないが、
足元が不安定な古道で、竜司の身体は疲弊した。
ーー嵐の前の静けさ、か...。
ここまで、何も起きていない事が、不気味である。
しかし、常に緊張感を持ちながら、
警戒するのも、精神的な消耗を招く。
つまるところ、出たとこ勝負だ。
いつ何が起きてもおかしくはない。
しかし、今は、休んで備えた方がいいだろう。
「イテテ...。」
何時間も歩いていた影響で、
下半身は、すでに筋肉痛である。
少しでも、回復に当てた方が、懸命だ。
「寝よ...。」
ひとまず、寝ている最中の襲撃に備え、
ドアや窓は施錠、懐には、いざという時に、
愛用のゴム弾の入った銃を忍ばせている。
ピークを迎えた疲労で、竜司の瞼は閉じていった。
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崖上の草原、木製の波止場、眼前に広がる海、
そこに、中世時代の欧州を思わせる
ドレスを着た、金髪の長いヨーロッパ系の
女性と、整った髭を生やした男性がいた。
どうやら恋仲の関係の様だ。
しかし、何かしらの事情で、別れようとする所だ。
時刻は、夜。
竜司は、男性に憑依する形で、見ていた。
男性は崖の上、そして、女性は
波止場にある小舟の近くにいた。
彼が、別れを告げ、背を向けて歩き始めた時、
ふと、今一度、愛を持って、
彼女の今後の幸せを伝えよう、
と、引き返し、離れていく彼女に
声をかけようとした時だった。
彼女の顔は、恐怖の色に染まり、怯えていた。
戻ってきた彼に、何をされるか
勘違いをして、取り乱していた。
しかし、男性は、ただ言葉足らずだった
彼女への愛を伝えようとしただけだった。
が、彼の声は、虚しくも届かなかった。
そして、彼女は、恐れ叫び、
荒れる海の中、小舟に乗ろうとした。
そんな彼女に、冷静になってもらう為に、
彼が声をかける矢先、
その背後から、鎧の騎士を連れた
兵士達がやってきていた。
すると、一人のリーダー格が合図、
それを機に、兵士達は、崖の上の
草原に生えている何本もの、
木になる実に目掛けて刺した。
しかし対象は、木の実ではなかった。
狙いは、その実で、食事をとっていた
雀ほどのサイズの不死鳥の群れだった。
男性があっけに取られている間に、
不死鳥達の命は、次々と無惨に奪われ、
消えていった。
しかし、ただ一羽だけ、生き残った。
男性の目に、確認できた。
その不死鳥に対して、騎士団のリーダーは、
「もう、種は栄えない」
「子孫は残せないから放っておけ」
そう言い残し、見逃した。
しかし、彼だけはわかっていた。
騎士達が去った後、その一羽だけの
不死鳥は、健気に、木の実のカケラを
ついばみながらヒナに、与えていたのだ。
男性は、決めた。
不死鳥の行く末を見届ける事を。
しかし、彼の懸念、別にあった。
そう、彼女だ。
不死鳥達の惨劇を目の当たりにし、
極度の人間不信を抱いてしまった。
その結果、彼女は、波止場にある家に、
閉じ籠り、心を閉じてしまった。
男性は、幾日も、不死鳥を見守る傍ら、
時折、崖下の離れにある家から
外に出てくる彼女を見つめていた。
しかし、彼女は、疑心暗鬼、
コミュニケーションもままならなかった。
彼が、彼女への愛と、切なさの眼差しで、
遠くから、見守る中、ズームアウトしていく様に
視界は、暗転していった。