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星那《せな》Vol:12



「ゼェ...ゼェ...。」



あれから2〜3時間が経過、



一向に、目的地が見えない古道を歩き続けた。



アップダウンの坂道や階段、

アスファルトの地面に比べ、

しっかりと足を踏み込めない、



トレッキングさながら、体力だけでなく、

足腰の筋肉も、悲鳴を上げていた。



時折、足元のふらつき、おぼつかなくなる

瞬間もあり、ジワリと、竜司のスタミナは

消耗していたのだ。



「いつ着くんだよ...。」



獣道ではないのがまだ幸いだが、

線路の様に続いている山道を歩くのは

骨が折れる。



また、野生の動物がいる可能性もある。



もし、今、目の前に、熊の様な

大型獣が現れたら、命はないだろう。



おまけに、辺りが暗くなり始めている。



暗闇の中で、山を歩くのは、

滑落や遭難などの危険性がある。



一刻も早く、屋根と窓のある建物に

避難したいのが、竜司の心情だ。



「まずいな...。」



焦りの気持ちも出てくるが、

どのくらいの距離に、目的地があるのか、

正確な位置もわからない。



その為、力の出しどころが困難で、

体力をセーブする事が優先となっている。



すでに、試練の洗礼を浴びている訳だが、

これは、肉体に直接、効くからこそ辛い。



一歩、一歩の踏み出しが、竜司にとって、

貴重なライフを減らしている感覚なのだ。



どれだけ、水分補給をしていても、

気休め程度にしかならなかった。



「...うん?」



竜司が、疲労困憊で、顔を下に向いて

歩いていた時、ふと顔を上げる。



10m先で、リュウジが、止まっていた。



疲れの素振りすら見せず、

竜司と一定の距離感を保っていた

彼が、歩くのをやめていたのだ。



「どうした?」



「着いた。」



リュウジは、ある方向へ視線を向けていた。



「あっ...!」



竜司も、同じ方角を見ると、目を丸くした。



山道の下り坂の先には、視界が開け、

アスファルトの道路が舗装されていた。



ちょうど、バス一台分の幅の広さ。



その先には、いくつかの建物があったのだ。



「今日は、あそこで休む。」



「やっと着いた...。」



おそらく宿泊施設らしき施設なのだろう。



リュウジが、宿泊する旨を話すと、

竜司は、安息できる事に、胸をなでおろした。



最後の下り坂を降り、道路へと渡る時、



「うん...?」



竜司は、鼻に異臭が入ってきたのを感じた。



ただし、不快を誘う様な香りではなかった。



「この匂いは...!?」



根源は、ガードレール下に流れている川だった。



一見、山の湧水から流れている

小川に見えるが、湯気が出ていたのだ。



そして、その煙から漂ってくる、

玉が腐った様な硫黄の臭いの正体、



「温泉だー!」



先程までの疲れがすっ飛んだ程、

竜司の心は、歓喜に満ちていた。



出不精で、銭湯すら数回程度の経験しか

竜司にとって、源泉掛け流しの温泉は、

生まれて初めてであった。



「入るぞー!」



「早くしろ。」



テンションがハイになっている竜司をそばに、

第二次性徴期の少年は、冷めた目で見ていた。



それから一同、木造の年季の入った

宿泊施設に、チェックイン、



安全の場を確保し、1日目を終える。



「フゥ...。」



竜司は、宿に入って早々、風呂場へと直行、



源泉掛け流しの温泉に浸り、

長時間の疲れを癒していた。



「はぁ...生き返る...。」



たとえ、夢であれ、体感は、本物である。



たった数分に入っただけで、

一気に、睡魔が襲ってきた。



「もうちょっとだけ...。」



部屋に戻って、すぐに布団の中に

入りたい睡眠欲よりも、少しでも

温泉に入り浸りたい欲が、優った。



だが、温泉によって、全身の血流が循環、



身体が、一気に弛緩し、リラックスした事で

自然と、閉じてゆく瞼に、抗えなかった。



ーーバシャン!!



「ブフォ!冷たっ!」



「寝るならば、部屋で寝ろ。」



竜司が、湯船の淵に、顔だけを乗せる

テクニックで、寝ようとした時、



リュウジが、風呂桶になみなみに入れた、

冷や水を、竜司の顔面に浴びせた。



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