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星那《せな》Vol:11



ーーそれにしても...。



森の妖精や木霊達が、こちらの様子を

愉快に、楽しそうに眺めている、



そんな視線すら感じる程、



この森林には、神聖な雰囲気を漂わせている。



空気に一切の不純物や濁りがなく、

鼻から入る香りもまた、天然の匂いだ。



時折、ウグイスの鳴き声も、遠くから聞こえる。



相変わらず、太陽を覆い隠した

どんよりした曇り空で、霧雨が降り注ぎ、

視界不良ではある。



しかし、地面は湿っている程度で、

ぬかるみもなく、石畳の階段も滑る事なく、

歩行に関しての、問題もない。



試練という多大なるプレッシャーがある中、



竜司は、この外界から切り離された、

360度、この美しい幻想的な景色を眺めていた。



ーーまるで、巡礼だな。



学生時代、歴史の教科書で、見た事が

あるのを思い出した竜司、



昔、修験者が何日、何ヶ月もかけて、

険しい山道を歩いてお参りをする、



いわゆる、巡礼という宗教的な儀礼が行われていた。



現在でも、日本のとある土地では、

世界遺産に登録され、観光地としても、

遥か昔に敷かれた古道が歩かれている。



その参詣道を、竜司は、辿っている。



これが、竜司にとって、何を意味するのか、



それはまだ、不明であるが、

それを確認する為に、今、

薄い霧の中の山地を歩いている。



ーーあいつは...。



一定の距離感を保ちながら、淡々と、

先を歩いているリュウジの様子を確かめる。



ーーあいつなりの気遣い、かもな。



不器用だが、彼なりの配慮かもしれないし、

一緒にいないと、試練を乗り越えられる確率が

下がってしまう、合理的な判断もあるだろう。



ただ、時には立ち止まり、後ろを振り返り、

今の景色を目に、脳裏に焼き付けようとする

竜司のペースに、合わせている。



「フゥ...。」



およそ1時間半近く歩いた後、



ようやく、休憩ポイントらしき場所に着いた。



ログハウスの様な木造建物で、

吹き抜けの形となっている。



ベンチやイスが並んでおり、中には、

売店があり、水や軽菓子などが販売されていた。



「水ー!」



汗をかいて、栄養補給もしていなかった、

竜司は、砂漠で見つけたオアシスの様に、

目を光らせて、水を飲んだ。



「ったく、騒がしい...。」



竜司がガブ飲みしていると、先に到着して、

ペットボトルの水を片手に、睨む様な視線で

こちらを見てくるリュウジが、いた。



「おっ、待っててくれたのか。」



「別に、先が長いから、休んでいるだけだ。」



そう目を逸らしながら、リュウジは、

プイッと首を横に向ける。



ーーあぁ...そういう時代もあったなぁ...。



素っ気ない態度を見て、竜司は、

学生時代のつっけんどんだった過去を、

遠い目で見ていた。



ここから、竜司の感情が抑圧され、

内側へと殺していくのだったのだ。



だから、些細な言葉にも、棘があり、

コミュニケーションに齟齬やズレが生じ、

よくトラブルが起きていた。



それが、大人になっても、尾を引いていたのだ。



「先に行く。」



別に、何も言わなくても、黙って

出発する事だってできたはず。



それをわざわざ、そっぽを向きながらも

伝えるのは、彼なりの親切心だろうか。



「ちょっと待て。」



「あぁ?」



かったるい口調で、リュウジは、

イラついた様な返事をした直後、



「持っていけ。」



ヒョイッと、竜司が、ペットボトルの水を

下の手から、投げ渡した。



「別に、いらねぇよ。」



「先は長いのだろ?」



「予備に持っておいて、越した事はないし、

途中で、へばったら面倒くさいだろ?」



「フン...温いぞこれ。」



「もらえるだけでも、ありがたく思いな。」



軽口なやり取りを済ませた後、リュウジは出発した。



「さてと...。」



竜司は、屈伸運動と、全身をストレッチして、

身体をほぐした後、数分遅れで出発した。



「案外、可愛いやつだったんだな。」



在りし日を思い出し、微笑みを浮かべ、歩き出す。



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