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星那《せな》Vol:9



開拓された道は、ゆるやかな坂道が続いていた。



すっかり、海から離れていき、

内陸の方へと進んでいくと徐々に、

山間部が見え始める。



ここまで、人影は一つも確認できず、

また、建物や住居すら存在していない。



ただ、示された道筋を辿っているだけである。



ーーいつまで続くんだ...?



聖女も、指パッチンした直後には、

もう姿を消していたので、それ以上の

質問も叶わなかった。



とりあえず、暗中模索さながら、

言われた通りにするしかない。



坂道の角度も、わずかに上がり、

竜司の足のストライドも狭まっていく。



次第に、景色は、高さ10m以上の

大木が立ち並ぶ、山々で埋め尽くされた。



それにつれて、晴れていた天気は、

次第に曇っていき、霧が立ちこめ始める。



すでに、太陽は、隠れてしまっている。



「はぁ...はぁ...。」



1時間経過、



ひたすら、歩き続けていた竜司は、

両手を膝につけて、一旦立ち止まった。



「いつ終わるんだよぉ!」



竜司は、やまびこがこだます勢いで、

心からの叫びを上げた。



まだ、試練すら始まっておらず、

竜司のメンタルライフを、抉る。



ここまで、何も進展のない夢は、初だ。



ずっと同じ景色を見させられ、

何も変化が起きないまま、



しかも、緩やかな上り坂を

一人で行軍するのは、苦行に等しい。



どんよりとした曇り空、おまけに、

ポツポツと、小雨も降る始末、



「濡れてばっかじゃん...。」



「誰だよ、濡れて滴る良い男なんて、

キャッチフレーズを作った奴は。」



「湿った男と、一緒にいたら、

カビとか生臭さ半端ないだろ...。」



「水気を含んだって、不便しかないよ...。」



ぼやきの止まらない竜司は、

フラストレーションの捌け口を

ひとりツッコミで、消化しようとする。



溜まった不平不満を漏らした後、

顔を上げて、歩行を再開しようとした時だった。



およそ30m先、



これまで竜司を導いてきた道が、途切れていた。



その目の前には、大きなしめ縄が施されている

2本の巨大な杉が、立ち並んでいた。



「着いた...のか?」



半信半疑ながら、竜司は、残りわずかの

距離を歩き切り、樹木の元まで到着する。



竜司が、垂直に顔を上げても、

てっぺんが見えない高さである。



全長にして、およそ50m以上、

直径も、10m近い幹の太さ、



苔や葉っぱなどが、根本から頂点まで

満遍なく、生えている。



おそらく、樹齢一千年近い、悠久の時を経ているだろう。



まるで、夫婦の様に並び、竜司の前に、

静かな威厳を持ちながら、ただずんでいる。



「ここは...?」



竜司が目を凝らした、夫婦杉から

その先は、別世界であった。



苔蒸した石畳と石段、杉木立、

ヒノキ、クスノキなどの大樹、

道端で青々と生やしている植物、



霧雨に包まれた景色が、霊山の様な

神聖な雰囲気を、より醸し出していた。



「ここが...?」



「到着しましたね。」



竜司が、試練の入口に立った事を理解した直後、



聖女が、老杉のそばに現れていた。



「ここからが、試練の始まりです。」



「この山地の古道を辿る過程で、

竜司さんは、様々な体験をするでしょう。」



「通過儀礼の様なモノだと、思って下さい。」



昔、アフリカのとある部族では、

ある一定の年齢に達した時、



成人の儀礼として、ライオン狩りの

試練が与えられていた。



成功すれば、初めて一人前だと認められ、

結婚も、許される。



逆に、失敗をすれば、命を失う事はもちろん、



仮に、生き延びても、部族からは

大人扱いされず、村八分、

家庭を持つ事も許されない、



とても厳しい、儀式が執り行われていた。



形は違えど、今の竜司は、まさに、

その儀式が行われようとしている。



聖女の例えた言葉は、否応にも、

死との対峙を、竜司に直視させる。



ーーつぅ....。



額の横から、一筋の汗が流れる。



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