星那《せな》Vol:7
ーーザザァ...。
雲一つない太陽が照らす空、
白い砂浜、立ち並ぶ岩壁、
小刻みに打ち続けている波、
その渚で、竜司が海に浸かりながら倒れていた。
「...。」
海水の塩分のしょっぱい味が、
口の中に流れ込み、徐々に、意識が
覚醒していく。
その間にも、波の運動によって、
わずかに、身体が流れ上下している。
ゆっくりと、頭、首、それから、
両手で、砂の地面について身体を
起こしていく。
「ここは...?」
まだ、意識がぼやけている為、
竜司は、現在地や現状を把握できていない。
「いや...俺...死んだはずじゃ...?」
少しずつ、目覚める前の記憶、
交通事故の記憶を思い出してきた。
「そうか...ここは、三途の...海...?」
黄泉の国に向かうにしては、
バカンス感が漂う事に違和感を覚えるが、
命運が尽きたのだけはハッキリしている。
「待てよ...?もしかして...これは...」
その界隈に関する知識のストックは、
ムダに蓄積していた竜司は、別の可能性に
辿り着いた。
「転生...どこか異世界にいけたりして...。」
そもそもこの物語が始まった時から、
夢という、異世界に入り込んではいるのだが、
竜司が想像したモノは、アニメにあるパターンだ。
「へへ...どんなジョブに生まれ変わり...」
現実同様、ビショ濡れ状態の竜司だが、
全く不快を感じていない。
それよりも、転生という妄想に耽り、
口元が緩んで、ニヤけている快感の方が
強い様だ。
が、しかし、
「ここまで来たのですね。」
竜司にとって、脳に刻み込まれた、
一生涯、忘れない声が聞こえた。
先ほどまで、絵に描いていた餅は、
一瞬にして焼却処分され、強烈に、
現実へと引き戻されていくのであった。
ーーそぉ...。
ギクッと、本能的に、肩を跳ねらせた
竜司は、ゆっくりと振り向いた。
「なんで....?」
ここにいるのかと言わんばかりに、
竜司の目は見開き、口はあんぐりとしていた。
波風に揺れているレース調の
白いワンピース、太陽の光を遮る、
頭を大きく覆った麦わら帽子、
背中まで伸びる白と銀色の輝く髪、
雪の様な白い肌、
そして、すみれ色の透き通った瞳、
聖女が、そこにいた。
ーーいや...待てよ、例のあの人が、
もしかしたら、実は、異世界の案内人で
次の転生先を教えてくれる神様キャラ...
なお、一縷の望みを捨てきれない竜司だが、
聖女は、淡々と現状を突きつけていく。
「ここは、竜司さんの夢の世界です。」
いとも簡単に、竜司の幻想は、粉々に砕け散った。
ーーマジか...。
何度見た光景であろうか、
竜司の期待は、木っ端微塵、
肩を落として、項垂れてしまっている。
「つまり、まだ、現実の竜司さんは生きています。」
竜司にとって、存命している事は朗報だろう。
しかし、転生という、生まれ変わりの
期待値の方が高かった竜司にとっては、
この知らせは、すぐに受け入れらなかった。
とても、複雑な心境で、聖女の話を聞いていた。
「しかし、ここはとても、曖昧な世界です。」
どうやら、いつもとは事情が違う様だ。
「ここは夢の世界で、最下層の世界です。」
「今、現実の竜司さんは、とても深い眠りにいます。」
次の聖女の言葉は、死の宣告にも近い内容だった。
「もし、今回の夢を乗り越えられなければ、
二度と、目を覚ます事のない、永遠の虚無を
彷徨い続ける事になってしまうでしょう。」