星那《せな》Vol:4
それから、ガソリンスタンドで給油、
ついでに、オイルの点検・交換も行い、
メンテナンスを済ませた。
快調に、現在、バイクを走らせている。
ーーちょくちょく走らせようかな...。
次々と目の前で、移り変わる景色が
外の世界への好奇心、はたまた、興味が
彼の心を刺激したのだろう。
ツーリングという、「趣味」のカテゴリーが
彼のステータスに追加される予感がした。
これまで、自宅と会社間を往復するだけの、
平面的な2次元の空間しか生きてこなかった。
それが、たった今、点と線だけだった
彼の現実世界に、奥行きをもたらし、
新たな次元が生まれようとしている。
すでに、夢という異なる領域を
見知っているはずである。
しかし、竜司にとって、今見ている世界も、
また、新鮮で、美しささえ感じている。
ーー世界って広いなぁ...。
突拍子もない経験をしているにも関わらず、
ただ、一歩踏み出した先の景色、
どこにでもある、日常の風景が、
竜司の目には、地平線まで続いている
広大な大地の様に感じた。
その様な情緒を思い至らせるのであった。
ーーザザァ...。
いつの間にか、バイクは、海沿いに出ていた。
穏やかな波の音も、竜司の耳に届く。
「ちょっと、休憩するか。」
久しぶりの運転で、気づけば、
1時間近く走らせていた。
一度、竜司は、休息を挟む事にした。
海岸近くの駐輪場で、バイクを駐車し、
海へと続く、階段を降りて、砂浜に着いた。
ーー海なんて、いつぶりだろ...。
竜司にとって、海や山といった自然の場所を
訪れるのは、10歳にも満たない頃だ。
幼い頃の竜司は、今の彼と違い、
とても自由奔放な少年で、まさに、
夢に現れたリュウジそのものである。
ーー水着、持ってきたらよかったかも。
いつも、未知の世界、景色、刺激を求め、
海や山は、お祭りイベントの様で大好きだ。
久しぶりの海を前にして、竜司の心は、
ドラムが鳴る様に鼓動し、踊っていた。
ーー今度、来る時は持っていこう。
ーーとりあえず、脱ぐか。
昂る気持ちをよそに、竜司は、
あどけない童心を思い出しながら、
裸足になって、歩いていく。
ーーザァ...。
休日であるが、まだ竜司以外の人はいない。
波音だけが、彼の耳から脳、
そして、全身へと心地よく響き渡る。
鼻から薫る潮風もまた、彼の身体、
心、精神を癒していくのであった。
「冷たっ!」
足先だけを海水につけてみると、
氷バケツに足を入れた様な冷たさで、
反射的に、一歩、下がった。
「だが、悪くない!」
海水の気持ちよさが優ったのか、
今度は、膝近くまで、思いっ切り、
浸かってみる。
「あぁ冷たい!けど、気持ちいい!」
他の人が聞いたら、変態じみた発言だが、
竜司は、構わず、発声する。
海という自然が、これまでの彼のしがらみを
解放し、本来の彼を呼び覚ましたのかもしれない。
しばらく、悦に浸りながら、
地平線まで続いている海を眺めていた。
ーーそういえば、あの時の夢は...。
ふと、竜司は、この前のミッションを思い出した。
あの時は、降下する形で、海にドボン、
しかも、例の小僧のせいで何度も、
寸劇をするハメになって、消耗した。
寝ている間にも、イタズラを仕掛けられ
ミッション前から、踏んだり蹴ったりだった。
ーー呼んだ♩
噂をすれば、なんとやらである。
せっかく享受していた安寧を脅かす、
かいぶつの再来である。
ーーWow!マーベラス!!
ーー海ダァーー!!!
ーーNICEですね♩グーググー♩
元々から、ブレーキはないリュウジが、
更に、アクセルを踏んで、リミットオーバーに
喜びを表現しながら、再登場した。
「欧米か!」
「というか、ツッコミ要素が渋滞して、
どこから、指摘していいかわからん!」
ハイテンションなリュウジを相手に、
竜司は、辟易しながらも、かいじゅうの
襲来に応戦する。
夢に続き、現実でもまた、海での
ショートストーリーに付き合う事になった。