星那《せな》Vol:2
ーーまっ、イイ時もあれば、ワルい時もある。
ーー結末に悩んだ所でどうしようもないでしょ?
カミサマじゃないんだし。
「身も蓋もない事を言うんじゃない。」
やや乱暴な結論で締めるリュウジに対して、
竜司は嗜める。
だが、言われてみれば、一理ある。
たとえ、どれだけの大金を積まれても、
額に銃口を突きつけられたとしてもだ、
根を張った、価値観を変えないのもまた、人である。
いくら竜司達が、夢で奮闘しても、
相手が、現実を変える意志がない限り、
のれんに腕押しである。
それを嘆き、自責を課すのは、話が違う。
ーーまぁ、転生したら魔王で世界征服する
スローライフ的な感じで楽しむじゃん♩
「ベタなタイトルのメタな設定を言うんじゃない。」
ーーえっ、オレ達はフィクションじゃないの?
「話がややこしくなるから、それ以上の話はやめい!」
客観的に、夢にいる竜司は、仮想の世界ではある。
リュウジもまた、竜司のインナーチャイルドが
具現化された存在、いわば、フィクションだ。
どちらもいうなれば、現実に存在しない
ポジションではあるし、話がややこしい。
面倒な話を竜司が切り上げると、
すっかり、彼の心に曇りがかっていた
暗い霧は晴れていた。
「ったく、調子狂うわ...。」
朝の目覚めから、すっかりとペースが乱れされ、
竜司は、思わず、小さく悪態をつく。
ーーこっちも調子狂ったし、お互いサマでしょう?
ーーラスボスなんだし、これからは、
大魔王らしくないネガティブムーブは禁止ね♩
こちらが被害者だと言わんばかりに、
リュウジも言い返した上に、クレームまで
つける始末である。
「単に、お前が好き勝手に動きたいだけだろ...。」
ーーあっ、バレた?
「お前の事はわかってきたわ。」
言わずもがな、もう一人の自分自身である。
幼少期を思い出してきたと同時に、
散々、夢で振り回されてきた事で、
その魂胆もある程度、把握はできた。
ーーだけど、ソッチに何かあったら、
コッチにもシワが寄るんだから、
それだけは気をつけてよね〜。
本当の事ではあるので、少し真面目な口調で
リュウジが伝える。
「考えておくわ。」
ーーあっ!飲み会に誘われて、
「考えておくわ」って答えたけど、
結局、行かないタチの悪いヤツでしょ!
「確かに、ハッキリと答えてくれないと、
誘う側も困るから、よろしくないけど、
たとえがニッチ過ぎる!」
「というか、まだお酒は飲めない年齢だろうが!」
わかる人にしかわからない例えと、
これみよがしに、ディスりも入れる
リュウジの発言に、竜司も応じる。
ーーノンアルあるならいけるでしょ!
「意地でも、お酒カテゴリーに関わろうとすな!」
子供が大人の世界に、興味本位で
首を突っ込みたくなる時があるが
まさに、リュウジがそのモードである。
こうして舌戦が、朝の日常を騒がしく色づけていく。
「...出かけるか。」
これ以上の議論で時間の浪費する訳にはいかないと、
竜司は、外出する事にした。
ーーあっ!どこかにいくの!じゃぁ行くなら...!
「シャットダウン。」
竜司は、自己暗示をかける意識で、
一度、リュウジとのコンタクトを切る。
「オッケー、聞こえないな。」
お試し感覚ではあったが、効果があった。
先ほどまで、脳内に響き渡った音が静かになった。
「よし、久しぶりに...。」
収納ボックスから、小さな鍵を取り出す。
「バイクに乗って、遠出でもするか。」