日常Ⅳ:Vol4
リュウジは、竜司の心が映し出す投影、
インナーチャイルドとして、具現化された存在、
どういう子供でいたかったのか、
物心がつき始める幼少期の自分自身は、
どの様に生きていたかったのか、
それぞれの人達の思考や心の中で、
考え、想像していた像を持っている。
しかし、現実世界では、赤の他人はおろか、
本人でさえ、認識は、ほぼ不可能だろう。
そこまで考える暇を、現実は与えてくれないからだ。
人は、成長するにつれて、周囲の環境に染まる。
その狭い社会のルールに縛られ、抑圧される。
虚構の現実を生きる事を、強制されるのだ。
それが、善で、正解だと思い込まされる。
その様な同調圧力に晒されると、
いつしか、純粋であった子供の頃は
なかったモノとされる。
そして、本当に、忘れ去ってしまうのだ。
やがて、童心すらも忘却する。
しかし、心の奥深い所にある領域では、
歪んだ現実は淘汰され、ありのままの絵を現す。
本当は、皆、気づいている。
なかった事にはできないのだと。
だけれども、無意識に、蓋をしまっているのだ。
ここで、白状してしまうと、それまでの
現実に屈していた事実に直面する、
精神的な苦痛に苛まれてしまうからだ。
己の非を認めたくないのは、人間の性でもある。
しかし、そこで一歩踏み出し、
痛みと向き合える人物が、本人の望む、
新しい現実が誕生するのだ。
竜司は、その過程で、もう一人の彼と出会った。
まだ本人は気づいていないが、
すでに、誰かが作った仮初めではなく、
本来の彼自身の現実を生き始めている。
そして、彼によって産み出された少年は、
かいぶつの如く、これまでの幻想を破壊し、
革命をもたらしていく。
「すでに、リュウジ君の登場によって、
この世界は影響を受けています。」
「あの子の遊び心のある、自由奔放さ、
クリエイティブな振る舞いは、周囲に、
多大な変化をもたらしています。」
聖女は、竜司の心の絶叫をスルーに関せず、
リュウジの登場による変化を話した。
ーーそういえば...。
自身のサイコ適正についてはさて置き、
竜司は、聖女の言葉に心当たりがあった。
例えば、エージェントボブ、
ゴム弾を超速反応で回避されたのはもちろん、
その直後の、こちらのツッコミを返した。
本来ならば、侵入者の排除で、
プログラムされている潜在意識の
防衛システム、
ロボットの如く、竜司を淡々と、
追い詰めていたはずである。
しかし、竜司に対して、感情的な反応を示し、
あまつさえ、逆上する場面もあった。
また、ヴァンパイアの執事の登場、
今回のターゲットの悍ましい姿、
リュウジ自身の突拍子もない行動も然り、
あらゆる場面で、これまでの夢とは
勝手が違っていた事を、竜司は感じていた。
マンガやアニメの世界にいる感覚に近い。
「リュウジくんは、素直です。」
「とても明るく、楽しい事や面白い事が好きです。」
「それが、夢に光をもたらしているのでしょう。」
あのエージェントに、ユーモアや感情を
もたらしたのは、リュウジの個性による
影響だったのだ。
「そして、創造力あふれる自由な発想は、
様々な場面で、竜司さんの助けにもなるでしょう。」
「彼の個性をうまく活かしてあげれば、
現実の竜司さんにも、恩恵をもたらすので、
サポートしてあげてくださいね。」
ーー先の長い話になるな...。
自由を超えて、好き勝手に暴れている
じゃじゃ馬ボーイを乗りこなせるか、
不安が募る竜司であった。