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かいぶつVol:25



ーーピシッ!



この世界全体に伝わる様な、

空間が裂ける音が鋭く響いた。



ターゲットがいなくなった事で、

この夢の崩壊が始まったのだ。



まもなく、この夢の世界そのものが、消失する。



「それで、脱出の手立ては?」



あちらこちらで、建物の崩壊が始まる中、

竜司は、今度のプランを、小さな相棒に聞いた。



「うぅんとね、ノープラン!」



「つまり、何にも考えていなかったのだな!」



ここにきて、何も策を講じていないのは、

致命的である。



このまま座して、命の灯火が消えるのを待つのは

たまったものではない。



「失礼だな!」



「考えてはいたよ!何も浮かばなかったけど!」



「考えていたのはいいけど、もうちょっと粘れ!」



「粘ったよ!30秒だけ!」



「せめて、分単位までは頑張れよ!」



二人の押し問答が続いたが、いかんせん、

タイムリミットが迫っている。



ここで無為に時間を過ごすのは、賢明ではない。



「とりあえず、ここから出るぞ!」



「アイアイサー!」



敬礼のポーズを取るリュウジを尻目に、

竜司は、急ぎ、来た道を戻り始めていく。



ーーいいわよ!その醜い声!とっても最高だわ!



「まだやってんのかよ...。」



あの執事の吸血鬼が、律儀にも、

まだ、エージェントの見張り、もとい、

痛めつけながら、悦に浸っていた。



ボブの方は、四つん這いの状態で変わらず、



踏んづけられたりしながら、

苦悶の表情で呻き声をあげている。



ーー貴様だけは...いつか...絶対に...グフッ...!



竜司は、殺意の目線を向けられている気がしたが、

色々な意味で、見なかった事にした。



またいずれ、邂逅する事になるのだ。



ある意味で、夢の世界の宿命なのかもしれない。



ひとまずは、脱出が最優先である。



二人は、ホールを出て、廊下を抜けいく。



途中の壁や柱、天井などの崩落を回避しつつ、

屋敷の庭へと駆け出していく。



ーーあぁぁ!ぐわぁ!



外に出ると、あちらこちらで

夢の崩壊の影響が如実に表れている。



屋敷全体が、あちらこちらで崩れており、

大地は割れ、陥没を起こしている。



他のエージェント達は、壊れた柱や

天井に押し潰され、動けなくなっている。



「あっ!あったあった♪」



リュウジが、門の出口付近で

何かを見つけ、嬉々とした声を上げる。



「これは...」



楕円形のヘッドライト、3ドア、

ミッドナイトのブラックカラーで

塗装された車体ボディとホイール、



「Mini?」



「Bingo♪」



イギリス生まれのかわいらしい

コンパクトカーがあった。



リュウジが、陽動で囮になっている時、

タブレット操作で、大半のエージェント達を

おびき寄せるのに一役買った、



いわゆる、影の殊勲者である。



「無事に戻ってきたんだねぇ〜!」



リュウジが、愛しい我が子を迎える様に、

頬を、ヘッドライトに、スリスリさせている。



車体にダメージはない。



おおよそ、追手を撒く事に成功して、

戻ってきたのだろう。



「さぁ、乗った♪乗った♪」



リュウジは、助手席へと、竜司を案内する。



ーー車の趣味は、いっちょまえにいいんだな...。



国産ではない外車、



しかも、いかにもな高級車の代表的な

モデルではなく、個性的なデザインで

選ぶあたりのセンスに、竜司は感心していた。



「ほんじゃぁ、ポチッとな♪」



ーーブォン!



リュウジが、タブレット式のゲーム機を取り出し、

起動すると、エンジンが鳴った。



「出発進行!」



操作モードに切り替えると、

車を発進させて、屋敷を後にする。



まもなく、建物は全壊し、跡形も無くなった。



車内の窓からは、他の家々も同様、見る影もない。



街路樹や電燈も倒壊、



閑静な住宅街が、もはや、荒れ果てた地に

様変わりしているのを確認できた。



「それで、最後はどうするの?」



ひとまずのセーフティーは確保した。



だが、根本的な解決をした訳ではない。



竜司は、スマホなどの様に、

脱出のモノがあるのか尋ねた。



「それは...」



ピッと、リュウジが、「脱出」と

表示されているアプリを押した。



「このMiniちゃんに任せればオッケー♪」



ーー嫌な予感しかしないのだけれども...。



すでに、自動運転モードになっており、

あとは目的地へと連れてくれるのだろう。



気づけば、住宅街を抜け、

オーシャンビューを堪能できる、

崖沿いの道路を走っている。



満月が煌々と照らす中、



崖も所々で欠け、落石も起きており、

バックミラーからは、こちらを追ってくる様に、

アスファルトが、崩れて落ちている。



後戻りできない状況で、リュウジは、

両手で頭を組みながら、寝っ転がっている。



まるで、結末がわかっているかの様で、

竜司は、イヤな予感がしていた。



直後、竜司のカンは、毎度の如く、的中する。



「もうゴールだね♪」



リュウジがそう嘯くが、前方には、道がない。



つまり、崖底へまっしぐらの一直線コースだ。



距離にして、100mもない。



「バ...!?」



そうツッコミを入れる時間もなく、

猛スピードで走った車は、途切れた

道の先を進み、飛んだ。



そして、重力に逆らえるはずもなく、あえなく落下する。



竜司には、このわずかな時間が、

スローモーションに映っていた。



ーーあぁこれ、オワッたやつじゃん...。



竜司が、結末を悟った。



一方、隣の小僧は、落下中も、余裕綽綽である。



加えて、何やらこちらに話しかけているではないか。



竜司が、口元をよく見てみる。



「じゃあ、また後で、来世で会いましょう♪」



ニッコニコの笑顔で、とんでも

ブラックジョークを放つのがわかった。



ーー絶対、シバいてやる...。



車が崖底に衝突する寸前、



この夢の終わり、



竜司は、ずっと振り回されてきた

目の前にいる小童へのお仕置きを

誓うのであった。



そして、車が地面とぶつかった直後、



竜司の視界は、ブラックアウトした。



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