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かいぶつVol:24




リュウジが手にしていたのは、一冊の本であった。



ブラックカラーで、辞書のサイズ、

表紙には、何かの呪術のなのであろうか、

印のようなモノが描かれている。



「うヘぇ、趣味が悪いねこれ...。」



珍しくリュウジが、顔をしからめた表情をする。



臭いモノから遠ざける様に、

親指と人差し指だけで、書物の端っこを

つまんでいる。



中身を見なくても、相当、悪意にまみれた、

闇の深い事が書かれているのであろう。



「じゃあ、燃やすか。」



「それ、賛成!」



本来ならば、ターゲットの潜在意識下の

夢に隠されている秘匿情報を盗み出して、

それを読み取り、脱出するのが流れである。



しかし、今回は、例外だ。



特に、竜司の現実世界で関わった人の夢でもない。



加えて、救い様のない、堕ちた人間だ。



ヘタに手を差し伸べた事で、また悪事を働き、

被害者が増えて、傷つく人が出てくる恐れもある。



こんな人間の為に、自身の脳のキャパを

使いたくないし、中身も見たくもない。



「ゴミは、焼却処分だ。」



竜司は、マッチを取り出し、

火を付けて、本の切れ端に移した。



「あぁぁぁ!!!」



「やめろぉぉぉ!!!」



「よくも!神の言葉が記された神聖な書物を!」



「この悪魔がぁぁぁぁ!!」



気が触れたのか、老婆が喉を枯らしながら、

竜司達を罵倒する。



「失礼なウンコババァだな〜♪」



リュウジが、どこから出してきたのか、

バーナーを取り出す。



「悪魔?違うなぁ〜♪」



老婆の罵倒も、どこ吹く風、



今にもスキップしそうなルンルンな

リズムの躍動で、点火しながら、

妖婆の言葉にアンサーする。



「オレは、かいぶつだぁ♪」



「アハハハハハ!!!」



狂気の笑いと共に、燃えている本を、

バーナーで炙り、さらに燃え盛らせる。



「ファイアーー!!」



あっという間に、火は、本の全てを覆い、

いまにも、燃え尽くさんとしている。



「ギャァァァ!!!」



彼女にとって、よっぽどの大事なモノ、



例えば、人生のそのものを現していたのかもしれない。



それが、目の前で、全否定されたのだ。



ある意味、この老婆は、あの書物に記していた事で、

正気を保っていたのだろう。



また、他者へと責任転嫁、呪った事で

自身の責任から目を逸らす口実になっていた。



それが、いかにも、自分の言っている事が、

全て正しく、神の如く、絶対的で神話である、



そう言い聞かせながら、誤魔化しながら生きてきた。



しかし、今、この瞬間、



現実からも、夢からも、逃げる事が許されない。



強制的に、これまでの清算をする事となった。



もう自分自身と、向き合う以外、

この哀れな嫗が救われる道は残されていない。



だが、彼女は、最後の用意された

一筋の光が差す、蜘蛛の糸を自ら断つ。



「あぁぁぁぁ!!!!」



突如、老婆が、走り出した。



そして、地面に落ちて、なお、燃えている

本にめがけてかけていく。



「AAAAAAHHHHHHH!!!」



もはや、言葉にもならない金切り声で、

タックルの体勢で、燃え盛る書物へと

抱きついた。



「ワダジのゼージョ!!ダガラ!ザイザン!」



喉を枯らしてしまい、正確なセリフさえ

聞き取りが困難である。



ここまでの執着はもはや、因縁というべきか。



その時、



燃えている炎がまるで、生物が如く、

この老女へと、つたう様に移っていった。



「あぁぁぁ!!!あづい!!あづい!」



瞬く間に、炎が、この老いた魔女を包み込む。



「ギャァぁぁ!!」



全身にまとわりついた火の手は、止められない。



地獄で苦しむ亡者の如く、老婆は、鳴く。



身体を振り回し、暴れ回った挙句の果て、

部屋の窓を破って、外へと飛び込んだ。



そして、そのまま屋敷の庭へと落ちていった。



結末は、言葉にするまでもないだろう。



「オバちゃん、バッドエンド?」



リュウジが、行く末を尋ねる。



「さぁな、あとは、現実で確かめるしかない。」



夢で命を落とす事は、すなわち、現実の帰還、



竜司が現実に戻った後、実際に確認する以外に

事の顛末は、わからないのだ。



「じゃあ、ここから脱出するぞ。」



「Si♪」



「スペイン語で、答えなくていい。」



リュウジの小生意気な返事を流して、

竜司は、夢の脱出を始めていく。



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