かいぶつVol:19
ーー嘘だろ!マジかよ!?
ここまで、マシマシの殺意を向けられたのは
初めてであったろう。
しかも、一発でも当たれば、文字通り
蜂の巣、髪の毛一本も残さない、無惨な
ゲームオーバーを迎えるのは、明らかだ。
竜司は、なるべく体勢を低くし、
ハリケーンの様に猛威を振るう
銃弾をやり過ごすしかなかった。
ただ、相手も、重い銃火器を持っているからか、
身動きが取れていないのが、唯一の救いか。
「隠れてもムダだぞ。」
「せっかく相手をしてやっているのに、逃げ回るだけか?」
ーーフハハハハハ!!
竜司が、動けない事をいいことに、
エージェントボブは、高笑いしながら
煽りのセリフを浴びせてくる。
ーー調子に乗りやがって...!
竜司は、これ見よがしに、けしかけてくる
エージェントに、腹立たしい気持ちが湧くが、
いかんせん、銃弾の嵐が止まない中だ。
うっかり顔を出そうものならば、絶対絶命である。
この不利な状況で、どう活路を見出すか、
「そんなにのんびりしていては、タイムアップになるぞ。」
なお、言葉責めをしてくる相手に、
竜司は、応戦しない事にした。
弾切れを待つのが、得策である。
その中で、放たれた銃弾は、フロアの壁や柱、
装飾品に至る、あらゆる物体を破壊し尽くしている。
豪華絢爛のオシャレであった広間は、
戦場の跡の様な、崩壊した廃墟になりつつある。
竜司は、その倒れた柱や大きなブロックを利用する事にした。
身体を這いつくばらせ、匍匐前進を始める。
少しずつ、敵に悟られない様に、距離を
ジワリと縮めていく。
「どうした?怖気付いてお喋りもできないのか?」
ーー言ってろ...。
なお、挑発してくるが、竜司は、決して反応しない。
相手も、狡猾である。
ここで、ラップバトルさながらに、相手しようものならば、
即座に、竜司の位置は特定され、狙い撃ちされてしまう。
わざと、怒らせ、逆上させようと先程から、
煽りの口上をあげているのだ。
だが、逆を言えば、こちらが黙っている限り、
見つかる可能性も低い。
また、向こうの位置がバレるリスクもある。
だから、竜司は、すでに、相手がどこにいるかは、
おおかたの見当はついている。
あとは、距離を縮めながら、反撃の機会を伺うだけである。
不利なシチュエーションでありながら、
竜司は、何とか勝ち筋を見出していたのだ。
そのチャンスを待ち構えている時だった。
ーーカチッ!
あれだけの弾を乱射していた影響だろう、
空になった薬莢がうまく排出されず、
ガトリング銃が、弾詰まりを起こしたのだ。
「チッ、ジャムったか...。」
エージェントは特段焦る様子は見せなかったが、
アドバンテージを失った事に、舌打ちをしていた。
ーー今だ!
ここだとばかりに、竜司は、身体ごと姿を現し、
エージェントへ反撃の攻勢に転じた。
重いガトリングガンを持っているがゆえに、
今ならば、容易に、銃弾を当てられるだろう。
ーーパン!
竜司が、一発のゴム弾を撃った。
しかし、反撃もその束の間、
エージェントは、竜司の動きを察知し、
顔を彼の方に向けると、ニヤッと口角を上げる。
すでに、弾は、銃口から放たれている。
なのに、余裕の表情である。
次の瞬間、エージェントボブは、超人的とも言える
反応速度と身体能力で、ゴム弾を躱していた。
正確には、顔一つ分、20cm程度、
首を捻って、弾を避けていた。
「リコ⚪︎コかよ...」
竜司の額から、冷や汗が流れた。
まさか、ゲームやアニメの世界の様に、
こんな非現実的な事をやってのける存在が
いるとは、にわかに信じられなかった。
ーーパンッ!パンッ!パンッ!
何発もの、ゴム弾を放った。
しかし、やはり、現実は厳しく、結果は同じであった。