かいぶつVol:18
エージェントボブが、再び、姿を現した。
前回の夢と同様、姿・形は、変わっていない。
そして、竜司の命を奪わんとする、執念深さもだ。
ーー生きていたのかよ...。
竜司は、苦々しい表情で、とても不快な気分になった。
竜司は、自ら放ったゴム弾を額に命中させて
意識を刈り取り、そのまま何十メートルもある
高層ビルのほぼ頂上から、落ちたのを見ている。
普通ならば、生存確率は、絶望的だ。
だが、元々、エージェントというモノは、実在しない。
人間の様に、感情はもちろん、命や魂もない。
ターゲットの潜在意識に入り込む、
ウイルスやバグを察知すれば、
それを排除せんと働く、防衛システム、
いわば、AIが擬人化した様な存在である。
だから、今、竜司が対峙している
エージェントボブは、厳密には、
以前、竜司が出会った彼ではない。
新たなエージェントボブが、竜司に関する、
データを引き継ぎ、共有しているのだ。
つまり、無数のエージェントボブが存在している。
その為、いくら竜司が倒しても、別の個体が現れる。
結果、いたちごっことなり、人間である竜司は、
どんどん体力を消耗して、不利になってしまう。
竜司が、極力、戦闘を避けていたのは、この為でもある。
無限に湧いてくる、防衛システムを相手にした所で、
キリがないし、ダメージも最小限に抑えておきたい。
あの暴れん坊が、注意を引きつけたお陰で、
無傷で、夢の中心部にまで辿り着いた。
しかし、その直前で、邪魔が入ってしまった。
仮に、ここで逃走するものならば、
あとから、増援がやってきて、追われる事になる。
そして、ターゲットがいる部屋の
入り口やその周辺は、突破困難な程に、
防御を固められてしまうだろう。
一言でいうならば、逃げ道がない。
素早く、短時間で、目の前にいる、人の皮を被った
冷酷マシーンを相手にしなければならないのだ。
ーーどうする...?
暗い闇に包まれているので、ゴム弾を放った所で、
相手に命中させるのは難しい。
おまけに、銃を撃とうものならば、
相手に、こちらの正確な居場所が割れてしまい、
不利な状況に追い込まれかねない。
うかつに手が出せない中、
エージェントボブが、再会を祝うかの様に、
余裕たっぷりに、悪魔的な口火を切った。
「再会の祝いだ。」
「貴様には、死に場所を用意してやろう。」
ーーうわぁ...ヤル気満々じゃん...。
機械的な存在であるから、竜司への
私怨や個人的な情はないはずである。
しかし、竜司には、いかにも復讐に燃え、
たとえ、ターゲットの夢がどうなると構わない、
狂気さえ感じるには、十分な発言であった。
ーーガチャ...。
重い金属音が聞こえてきた。
「7分だ。」
「7分だけ、相手してやろう。」
ーーどこぞの大佐かよ...。
緊迫した空気でも、反射的に、
ツッコミを入れる竜司であったが、
これから何が始まるか、わかった瞬間、戦慄が走った。
暗闇の視界に慣れてきた事で、
あのターミネーターが何をするのか、
全身から、緊急避難の信号が発せられ、
アドレナリンが一気に、分泌された。
本能的に、竜司は、そばの柱の影に滑り込んだ直後、
ーーバババババッバババババッバババ!!!
ガトリング砲が火を吹き、あたり一面を
粉々にせんと、蹂躙されるのが開始した。
「貴様だけは、この手で葬ってやる。」