かいぶつVol:17
「ここだな...。」
屋敷の中心部に忍び込んだ竜司、
すんなりと入り込めた時は、何かの罠があるのかと
気を張っていたのだが、それも杞憂であった。
あの怪盗リュウジが、ド派手なショーとばかりに、
暴れ回り、現場の警備網を、荒らしていたのだ。
あまりにも、外の混沌ぶりに、
屋敷内で警護していたエージェント達まで
外に駆り出される始末だった。
「外の奴らを何をしている!?」
「最低限の人数だけ残して、後は応援に出ろ!」
「あのバカどもが!」
内輪揉めに発展しそうな、恨み節を吐きながら、
バタバタと急ぎ足で外に出ていく集団を、
竜司は、隠れて目撃していた。
ーーどんだけ、派手にやらかしているんだよ...。
どんな事をやっているか、想像もつかない。
普通ならば、ここで増援がやってくるのだから、
思わぬ苦境に立たされ、ピンチに陥るのではと、
心配する所ではあるかもしれない。
だが、囮役をやっているのは、もう一人のリュウジである。
しかも、何をしでかすのかは、
その時のインスピレーションと閃き、
彼のアイディア、童心や遊び心、
そして、そこから生まれる、創造的で自由奔放なアクション、
竜司自身ですら、何をするのか見当もつかない、
未知の生命体が相手なのだ。
むしろ、振り回される敵に、同情する所であった。
たかが、子供一人に、大の大人が寄って集って、
追っているのは、何とも滑稽な状況ではある。
だが、違う視点から見れば、
たった一人の少年の力に、
何人もの成人が圧倒されている。
フィジカルも、頭脳も、キャリアなど、
不利な条件が、いくつもあろうと、
天真爛漫な男児の前には、無力と化した。
ある意味、どれだけ最新兵器を投入しようが、
ありったけの人数や武器をかけ集めた所で、
違う惑星からやってきた巨大星人を相手には、
まるで通用しない、むしろ壊滅的な返り打ちに遭う、
特撮映画のシーンに通じるモノを、竜司は感じた。
まるで、未確認生命体みたいな、かいぶつ、
あの小さな身体には、とんでもない
スーパーなパワーが宿っているのだろう。
それは、大人になるつれて、徐々に失われた力。
誰にしもあったはずなのだが、いつの間にか、
どこかに落として、無くなってしまった。
その落としモノを、竜司は、これから拾っていくのだろう。
とにもかく、怪物じみた少年の陽動のおかげで、
潜入は容易になった。
竜司は、集団が通り過ぎていくのを確認すると、
念の為、廊下の中央には立たず、壁の端をつたう様に、
ゆっくりと慎重に、歩を進めた。
ブラックアウトの影響で、幸い、
屋敷内は暗く、時折、窓から月の光が
差し込まない限り、存在を察知される事もない。
誰にも遭遇せず、インプットされた
マップを最短ルートで進む事ができた。
そして、辿り着いたのが、大きなホールであった。
大理石の内装、近くには、騎士の鎧が
一定の感覚で並んでいる。
中央には左右に分かれた曲線の階段があった。
その先には、両開きの木製の扉がある事が、
竜司の視界からでも、確認できる。
この扉の先に、今回のターゲットがいる。
直感的に、竜司は、そう感じていた。
ーーカツ...カツ...。
その時だった。
どこからか、こちらに近づく足音が聞こえてきた。
少年が後を追いかけてきたのか?
いや、響きわたる様な音の鳴る靴は履いていない。
革靴の踵が、地面に当たる時の音である。
ーーまさかな...。
一筋の汗が、竜司の額から流れた。
もう出会いたくはないし、まさかとは
思っていたが、そのまさかだった。
そのイヤな予感が的中したのは、その声だった。
「Good evening,Mr.Henderson.」
(こんばんは、ヘンダーソン君)
「I'll kill you this time.」
(今度こそ、貴様を葬ってやる。)