かいぶつVol:16
「探し出せー!」
「おっと、ひとまず退散!」
金的アタックによる悲鳴を聞きつけたのか、
別のエージェントがやってくる声がした。
一度、逃げる事にした。
逃走を図りながらも、次の作戦にも抜かりはない。
「それ!」
今度は、タブレットタイプのゲーム機を取り出した。
スイッチを起動した瞬間、
ーーブォォン!!
一台の車が、突然、エンジン音が鳴った。
楕円形のヘッドライト、3ドア、
ミッドナイトブラックカラーの
車体ボディとホイール、
イギリス生まれのかわいらしい小型車であった。
リュウジがスイッチを押したと同時に、
車内のディスプレイが、光った。
いくつかのアプリが表示されており、
まるで、この後の指令を待っているかの様だ。
間髪入れず、リュウジは、タブレットの
画面にあるモノをタップした。
「それっ!出陣じゃーー!!」
目をキラキラさせながら、
戦いのドラムを鳴らすかの如く、
次なる作戦に移った。
レースゲームの感覚で、自由奔放な少年は、
タブレットで操作を始める。
そして、このミニカーは、エージェントの
集団に向かい、突撃をする。
ギリギリの所で轢かない様に、
あくまで、現場を混乱させる意図で、
ドリフトさせながら、走らせる。
案の定、現場は、パニックに陥った。
ーーなんだあの車は!
ーー撃て!撃て!
しかし、こうなると分かっていたのか如く、
銃弾が車体のボディーを貫通どころか、凹みなどの
キズをつけない程、頑丈設定だ。
「まだまだー♩」
リュウジがとあるボタンをタップ、
すると、このミニカーのヘッドライトが、
ハイビームに切り替わる。
ーーギャァ!
突然、強烈な光が目に差し込んだ事で、
痛みのあまり、両手で、目を押さえる人が続出した。
ーー目がぁ!!
ロービームとハイビームを使い訳ながら、
集団の視覚を奪った事で、さらに、状況は
カオスとなった。
ーーギャァ!
目の痛みのあまり、思わず、銃の引き金を
弾いてしまい、同士討ちが起き始めた。
「プップー♩」
クラクションを鳴らしながら、
注意を引きつける、という名の
煽り運転プレー、舐めプを見せる。
ーーあの車をなんとかしろ!
よく目を凝らせば、無人車であり、囮なのは明確だ。
しかし、それすら判別できない程、
冷静に対処できる様に、敵サイドの
組織は統率がとられていなかった。
動物の本能的に反応したまま、集団は、
街中に走っていれば、オシャレで、可愛い
デザインのミニカーに振り回されている。
「ほんじゃ、逃っげろー♩あばよーとっつぁん♩」
現場の混乱っぷりに満足したのか、
ある程度の攪乱に成功したとみた、
リュウジは、この車を撤退させる事にした。
散々、煽りちらかしたこのコンパクトカーは、
突如、急ブレーキしたかと思いきや、
猛スピードで、屋敷から離れていった。
ーー追え!絶対に逃すな!
これだけの大騒動だ、
ターゲットの潜在意識達は、
もう、この車にしか関心が向いていない。
ほぼ総出で、このミニカーを追いかけていった。
「さてさて♩」
屋敷にいた人のほとんどが出払い、
逃走車を追っていく多くの車を確認した
リュウジは、「自動運転モード」を押した。
これで、自らの手で操作する必要がなくなり、
あとは、AIが運転する事となった。
「それじゃ、オレも行こうかな♩」
任務に成功した満足感で、リュウジは、
スキップをしながら、屋敷の中へ入っていくのであった。