かいぶつVol:11
「ハッ!」
竜司が、瞼を閉じた時には、すでに、
さざ波の音が聞こえる砂浜のビーチから一転、
ビル群が立ち並ぶ都会にいた。
すでに、夕陽は落ち、夜の時間帯になっていた。
夜空を見上げると、雲一つなく、
ただ、満月が、煌々としている。
暗い路地裏で、その月の光だけが、灯りを照らし、
かろうじて、視認できる状態であった。
ーー相変わらず、展開が急すぎる...。
聖女の時といい、今回のこしゃくな
少年リュウジといい、ろくな準備もしないまま
放り出される始末である。
幸い、ターゲットを守る、防衛システムや
エージェントはいないが、蓋を開けてみなければわからない、
ブラックボックス的な展開は、冷や汗だ。
ひとまず、警戒を解いた竜司は、
ここに案内した張本人を探す...
「レディースエンドジェントルメーン!」
までもなく、BGMが流れていそうな程、
意気揚々と、登場してきた。
「さぁ、ショーの始まりだぜ!」
アイマスクを装着し、全身が黒装束で
マントを泳がせ、チビッコ怪盗に変装した
リュウジが姿を現す。
月光をバックに、またどこかで覚えたらしい、
決めゼリフを言い放つのであった。
「はぁ...バーロー...。」
ガックシ肩を落とした竜司は、この勇ましくも、
図うずうしくもある、キマッている悪ガキに、
ため息混じりで、力のなく毒づくするのであった。
「それで、どうするの?怪盗さん?」
「ノンノン!怪盗キッ⚪︎と呼びたまえ!」
「確かに、子供だけど、表現的にそれはダメでしょ!」
うっかりと、著作権的に引っかかりそうな
ワードを言い放つのだから、慌てて訂正する竜司、
「じゃあ、アルセーヌ...5世!」
「格オチ臭が漂っているネーミング!」
二番煎じ以下の、味が薄れに薄れた様な、
使い回しの表現にも、容赦無くチェックを入れる。
「ブー!じゃあ怪人人面相?」
却下された事で、文句を垂らす少年だが、
なおも諦めずに、食い下がる。
「学校の図書館の目立った所にある
シリーズモノだけど、変装が人面ってホラーか!」
度重なるNGに、遂に、このこども怪盗は痺れを切らす。
「もぉいいもん!とりあえず、お宝を盗むぞ!」
「ちなみに、泥棒らしく、予告状は出しておいた!」
「バカ!どこぞの天下の大泥棒じゃあるまいし、
最初から、相手の警戒レベルを上げてどうする!」
「ちなみに、ポストに入れて送った!」
「そこは、律儀にやらなくていいわ!」
怪盗アニメにあるお決まりの展開ムーブで、
最初から、ベリーハードモードで臨む事になり、
頭を抱える竜司と、ワクワクする怪盗リュウジであった。