かいぶつVol:10
今の竜司は、とても滑稽な姿である。
顔以外は、砂に埋められており、
しかも、股間付近には、男性器を象徴する
モッコリが、そびえ立っているではないか。
これが、湘南の様な人気の海岸スポットであれば、
人が通り過ぎる度に、クスクス笑いが起きたであろう。
挙げ句の果てには、SNSにアップされ、
とんだ晒し者にされた結果、バズってしまって
デジタルタトゥーという、
一生モノの辱めを受けていたかもしれない。
だが、幸か不幸か、海岸には二人以外、誰もいない。
知っているのは、目の前にいる、
イタズラの張本人である少年だけである。
「ベタな作りをするんじゃぁない!」
追加のツッコミを入れながら、飛び上がる様に、
竜司は、砂から脱出した。
「待ちくたびれたし、ヒマだったからやっちゃった♩」
悪びれる様子もなく、犯行をあっさりと、
少年リュウジは、自白した。
むしろ、自分を待たせた竜司が悪いと言わんばかりに、
あっけらかんとした態度であった。
その余りにも、淀みのない、素直な物言いに、
竜司は、すっかりと毒気を抜かれてしまった。
「はぁ...そこまで素直に言われちゃ、何も言う気が起きないわ...。」
まるで、集合時間に遅れた友人が、
「悪い!寝坊した!」と、言い訳もせず、
清々しい程、正直に罪を認める事で、
相手のこれ以上の追及をさせない、
むしろ、その潔さに感服して、許してしまう程に、
この少年は、自らの過ちをプラスに変える処世術を
ナチュラルにできる、末恐ろしい子供である。
ーー俺ってこんな子だったけ?
竜司は、目の前にいる自由奔放な少年が、
とても昔の自分とは思えない様に感じた。
正確に言えば、荒んだ家庭環境に育っていた為、
幼少期の思い出は、記憶の彼方にある。
だから、どういう子供だったのか、思い出せていない。
いずれ、思い出す機会が訪れるが、
今の竜司には、目の前にいるファンキーキッドは、
外国人と話している気分である。
「まぁねー♩」
少年は、ケラケラと笑っている。
そして、次には、もう別の方に興味が移っていた。
「さっ!行こうか!」
「えっ?どこに?」
これからゲームが始まるワクワク感と共に、
右手で人差し指を立てながら挙げて、
冒険に出発するモードのリトルリュウジ、
かたや、アダルトリュウジはいまいち、
そのノリがわからず、急な切り替えに
困惑した顔で、眉をひそめている。
ーーいや、バスケットボールの試合じゃないんだから...。
ツンツン頭の天才プレーヤーの様な
キメ台詞へのツッコミは忘れていない。
「決まってるじゃーん!」
一体、何を言っているのだと言わんばかりに
笑い飛ばす、少年は、平然と言ってのける。
「ターゲットの居・場・所♩」
「これから大切なお宝を頂戴する、怪盗団が参上なのだ!」
少年がそう宣誓した瞬間、周りの景色が一変した。