かいぶつVol:9
「疲れた...。」
10分ほど、猛スピードで飛ばした後、
無事に、陸地に辿り着いた。
格闘のアーケードゲームがあるならば、
竜司のHPは、緑のゲージから黄色、
そして赤と、ヘトヘト状態、
体力が底をつき、砂浜で横たわっている。
「おぉ!着いたー!!」
対する、少年リュウジは、底無しの生命力である。
両手で、バンザイの様に上げ、到着した喜びを
全身で表現している。
あり余るスタミナで、そのまま駆け出して、
ミッションを始めようとする勢いだ。
「あぁ楽しかったぁ!!」
「そうですか...。」
テンションを合わせて、ハイになったはいいものの、
慣れていない事をして、無理がたたった。
とある、核兵器で世界が炎に包まれた20XX年、
その世紀末に登場する某悪役キャラばりの
ヤンキームーブをかました結果、
振り切り過ぎた事で、エネルギーがガス欠してしまった。
たったの10分とはいえ、竜司にとって、
パリピに代表される陽キャラの振る舞いをするのは、
とてつもない精神的な負担がかかっていた。
おまけに、体力の消耗も合わさって、
ミッションが始まる前から、すでに
グロッキーである。
「ねぇ、もう一回やろう!」
「それは、勘弁してくれ...。」
ちょっとでも気を緩めると、瞼が閉じられ、
返事のないただの死屍になりそうな所、
少年のクレイジーの極みともいうべき、
トンデモ発言に、力のなくとも、ツッコミを
入れるのは、流石の竜司である。
「寝る...。」
幸い、海岸には二人以外、人はおらず、
また、気配すらない。
本来ならば、セーフハウスの様な、
安全地帯を確保した方がいいのだが、
それよりも、疲労が上回っていた。
太陽からの心地良い温熱が、竜司を眠りに誘う。
ーーzzz...。
睡眠を宣言して5秒も経たない内に、寝た。
「えぇ!寝るのー?」
「せっかく、これからなのにー!」
何かブー垂れている小言が聞こえてきたが、
竜司にとって、お構いなしであった。
我が道をいくという意味で、
年齢が違えど、ソックリな2人である。
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「ハッ!」
瞼がバチっと開いた。
どうやら、快眠だったらしく、
頭がスッキリとしており、疲労はなく、
身体も軽い。
すでに太陽は西日を差し、まもなく、夜を迎える。
人生で初めて、砂浜で、昼間の野宿をする事になった
竜司だが、とんだ昼夜逆転である。
ーーそういえば...。
少年の存在の事を思い出し、探そうとした所であった。
「うん...?」
先程から気になっていたのだが、身体の自由が効かない。
正確には、首から下が、ピクリとも動かない。
「まさか...。」
「あっ!やっと起きたー!」
ちょうどいいタイミングで聞き慣れた声がしてきた。
「やっぱりお前の仕業かー!!」
「ベタなイタズラをしてるんじゃぁないよ!!」
竜司の首から下の身体は、砂で埋まっていた、
いや、真横で、アロハシャツを着て、
砂浜チェアでトロピカルジュースを飲みながら、
くつろぐ悪戯小僧によって埋められていた。