かいぶつVol:8
「ヒャッハーー!!」
世紀末よろしく、急発進でかましたスピードは、
ものの見事に、ジェットスキーごと宙返り、
ムーンサルトを決めた少年リュウジは、
とても満足気であった。
「10点、10点、10点、10点、10点!」
「栄光への架け橋を、決めてみせました!」
オーディエンスがいるかの如く、
国民の期待に応えた雰囲気で、
ドヤる顔をしてみせている。
「...ゲフォ!」
一人、宙に放り出された竜司を除いて。
再三、海に投げ出され、もはや、
ツッコミを入れる気力すら湧かなかった。
ーーアイツ...いつかシバいてやる...。
沸々と湧いてくる怒りを抑えつつ、
竜司は、なんとか残っている体力を使い、
ジェットスキーにまで辿り着く。
「どうだった?」
瞳を煌めかせながら技の感想を尋ねてくる
小生意気な小僧に、一瞬、カチンときた竜司だが、
やられっぱなしは、癪である。
どう仕返しをしてやろうかと考えながら、
座席に戻り、アクセルに手を伸ばす。
「フフフ...甘いな...。」
竜司は、精一杯の大人の対応で、笑顔を見せつける。
「キミはまだ知らない様だね...。」
「なになに?」
大人の醜い争いだと、ここでマウントを取り合う
合戦が始まるパターンだが、相手は、少年時代の
彼自身で、しかも子供だから、通用しない。
言葉の額面通りに受け取り、ニヤニヤしながら、
これからどんな事が起きるのか、胸を躍らせている。
童心に魅せられた竜司は、そのノリに乗る事にした。
「本当の芸術ってやつを見せてやるー!!」
その言葉を合図に、今度は、両手でしっかりと
ハンドルを握った。
そして、エンジン全開で、ジェットスキーを走らせた。
ーーブォォォォォ!!
急発進で、全身に重力がのしかかり、
また飛ばされそうになるのを堪えながら、
出発した。
「スピードの向こう側へ連れてってやるー!!」
ある種のドライバーズハイのモードで、
アドレナリン全開で、駆け出していく。
「ウッホォォォォ!!」
一方の小さきりゅうじも、竜司にしがみつきながら、
絶叫マシーンに乗っているかの様に、狂喜している。
「地平線に届く様に、限界まで振り切ってくれー!!」
「どこで覚えた!その言い回し!!」
「アニメ!」
ーーいや、いつの時代のアニメを見たんだよ...。
頭の中では、冷静にツッコミを入れながら、
全速力の中、叫びながら、陸地へと目指す
コンビであった。