かいぶつVol:7
「ブフォ!!」
衝撃と共に発生した津波は、2〜3mの高さに上がり、
竜司を飲み込むには、十分な大きさだった。
また海に飲み込まれてしまい、
その拍子で、海水を飲み込んでしまった。
反射的に、竜司の肺は、気管に侵入してきた
塩っ気タップリの水を吐き出す。
「ゲフォ!」
咳き込みながら、再び、海面から顔を浮き上がらせる。
まだ見知らぬターゲットの夢の世界に
飛び込んで早々、災難続きである。
「泣けるぜ...。」
イケメンが言えば、己に降りかかる不幸を
前にしても、クールでユーモアにも聞こえただろう。
しかし、竜司の身の上を考慮すれば、
その言葉通り、涙がちょちょぎれ、
とても笑えない状況である。
おまけに、その不幸という名の油に、
火を注いでいる愉快犯もいる。
「スイスイー♩」
飛び込んだ後、竜司が溺れそうになっている傍ら、
幼いリュウジは、バシャバシャと泳ぎを楽しんでいる。
「ウルトラソウル♩」
「ハイ!...じゃねぇよ!」
これから水泳の世界大会でも始めんばかりに、
この小さな少年は、悠々としている。
大人の竜司は、思わず、ノリに乗ってしまって
ツッコミを入れてしまったが、状況としては、
マズイ状態である。
ここはもう、赤の他人の夢なのだ。
いわば、戦場のフロントラインにいる。
まだ正確な場所は分かっていないが、
命が狙われるのも、時間の問題である。
しかも、身体の自由が効かない海にいる。
今、ここで襲われようものならば、ひとたまりもない。
このまま何も起きなくても、体力は消耗し、
溺れてしまうのがオチだ。
ある意味、絶体絶命のピンチに晒されている。
その様な状況と、市民プールに遊びにきた感覚で
シンクロナイズドスイミングをして、
芸術技を決めるイタズラ少年のギャップ、
竜司は、ただただ、頭を抱えるだけであった。
ーー緊張のひとカケラもねぇ...。
まずは、陸地に行かなければ話にならない。
これからどうするか、力が尽きる前に
考えようとしている所であった。
「あっ、船ならあるよ、あそこ。」
まるで、聖女の生き写しの様に、
竜司の考えている内容を先読みした
少年りゅうじは、右手の人差し指で示した。
竜司が、視線を向けると、船らしきモノはあった。
「これって...」
小難しい言い方だと、特殊小型船舶、
通称、ジェットスキーが浮いていた。
ーー船だけど、船じゃねぇじゃん...。
想像していた船とは、違ったモノが出てきたので、
名称としては、船の類かもしれないが、なんだか
キツネにつままれた心境になった。
しかし、ヘタに大きな船で動いても、
存在がバレる危険性があるし、そもそも
船の操縦経験もない。
この様な事を全く考慮していなかったので、
むしろ、操作が容易なジェットスキーで
よかったのだろう。
ーー次からは、こういう事もインプットしておこ...。
新しいこういう事もあろうかというパターンを
学習する事を、心に誓った竜司であった。
ひとまず、ピンチからは脱せそうである。
浮いているジェットスキーに辿りつくと、
すでに、エンジンにはキーがかかっている。
ご丁寧に、テディベアのアクセサリー付きである。
ーー泣けるぜ...。
ため息をつきたくなった竜司であったが、
とりあえずは、エンジンをかける事にした。
燃料の方は問題なく、アクセルを蒸せば、
このまま動き出すだろう。
「おぉ!動くぞー!」
どこからともなく、竜司の背中から、
ひょっこりと、ミニリュウジが現れた。
新しい乗り物に瞳を輝かせながら、興奮している。
ーーイヤな予感がする...。
そう思った直後だった。
「全速前進だー!!」
「ちょ...まっ...!」
竜司が慌てて制止するよりも前に、
少年がアクセルを回す方が1手早かった。
ーーブォォォォォ!!
エンジン全開で、ウィリーの様に垂直角度にまで、
ジェットスキーが高く舞い上がった。