かいぶつVol:6
「ダァァァァ!!」
落下スピードが衰える事がないまま、
竜司の身体は、真っ逆さまに落ちている。
10秒にも満たない間ではある。
しかし、悠長に構えるヒマもないまま、
暗闇の中へと押し飛ばされたのだ。
彼には、走馬灯の様にゆっくりと流れてみえている。
いくら、夢の中だからやり直しがきくとはいえ、
痛いものは痛いし、その激痛は、耐え難いものだ。
終着点は見えぬまま、落ちるのは、
たまったものではないし、突然、始まった
ミッションに、心の準備さえできなかった。
なにもかもがイレギュラーな状況で、
竜司は、叫ぶしかなかった。
その時、一筋の光が見えた。
おそらく、そこが、次の舞台なのだろう。
ひとまず、ゴールが見え、竜司がホッとしたのも束の間、
ーーこれ..どうやって着地するんだ..?
ダイナミックに、他人の夢に侵入しようとするのだ。
いきなり、空から人が落ちてきた所を
目撃されようものならば、一気に警戒されるだろう。
そもそも、転落している人間の身体を
5体満足の状態で、着地できるのかも、
はなはだ疑問である。
どの道、開始早々、ピンチである事に変わりはない。
だが、その数々の心配も、杞憂に終わる。
一筋だった光が、どんどん大きくなり、
竜司の身体を包み込んだ。
眩しさのあまり、両手で、目を塞いだ。
強い光の後、新しい景色が広がっていた。
自然の風が流れ、鳥達の鳴き声が聞こえる。
おそるおそる、瞼を開くと、竜司の視界には、
ブルーオーシャンが地平線の向こうまで続いている。
ーー海かよ...。
理解するまもなく竜司は、全身丸ごと、
大きな飛沫と共に、海中へとダイブした。
10〜15mは、落下の勢いで、潜る。
太陽で明るく差していた光も、
少し海の中に入れば、屈折した影響で、
先ほどの暗闇と似た色彩を帯びていた。
肺に酸素を入れる余裕がなかったので、
竜司は、急ぎ、浮上した。
「ブハァ!!」
ギリギリで、溺れそうになった所を免れる。
口いっぱいに広げて、空気を取り込んでいく。
「ハァ...ハァ...。」
沈まない様に、全身に力を抜き、
大の字で浮かぶ体勢にした。
消耗した体力をセーブする為、余計な力を入れない
今の竜司にとって、最善の対応をしたつもりである。
その直後、
「ヤッホー!!」
いかにも楽しげに、ダイブしてくる声が聞こえてきた。
竜司が上を見上げると、視線が合った。
「ちょっと待てぇぇ!!」
ツッコミで制止する間もなく、魚雷の突撃してくる
少年のダイブの被害を喰った。
ーーザッブーーン!!
という効果音が聞こえてきそうな程、
爽快に、海の中へと飛び込んだ。
その衝撃で起きた波に、竜司は、飲み込まれた。