かいぶつVol:4
りゅうじは、上空へ弾かれたボールを見上げ、
ニコニコと目を見開きながら、笑っていた。
すると、イタズラ心がまた芽生えたのだろう。
「トォ!」
牛若丸並みの軽やかさで、飛び上がった。
竜司は、小学生の放課後のグラウンドで、
クラスメイト達とやったドッジボールの
投げ合いを思い出していた。
顔面にぶつけられた苦い思い出が蘇り、
ヒリヒリとする痛みで、顔をしかめている。
「ビック・バン・ドラゴンシュートー!!」
必殺のオーバーヘッドをかまそうと、
やたら、ドラゴン系のネーミングを挟みたい
少年の事は、意識の外であった。
その雄叫びを聞こえた直後、回転のかかった
ボールが、すでに竜司の目の前にきていた。
「ブルルルアァアアア!!」
言葉を出す時間もないまま、
ボールが、顔面に再び直撃し、
頭から、全身が吹っ飛んだ。
不幸中の幸いか、ボールは、森の奥へと消えていった。
脅威が去ったのはいいが、状況の整理に
竜司の頭が追いついていない状態だ。
とりあえず、あの小僧の遊びに巻き込まれた結果、
被害に遭っているというのは確かだ。
「何するんじゃい!」
キレながらツッコみを忘れない竜司に、
当の本人は、ケラケラと笑っている。
「あはは、ごめーん!」
「脳汁がブシャー!ってきて、やっちゃった。」
ーー脳汁ってなんだそれ...。
独特のワードセンスに、竜司の怒りのボルテージは下がり、
肩透かしを食らってしまった。
おそらくだが、彼の脳内で、閃きがやってきて、
それを忠実に、素直に、実践に移ったのだろう。
でなければ、プロのサッカー選手でさえ
滅多にやらない曲芸的なシュートをやろうと
しないだろう。
それに、行動に、迷いが一切ない。
心の赴くままに、この世界を遊び感覚で
楽しみながら、奔放しているのだろう。
「それで、スパークして、ドォン!としたくなった。」
そう言いながら、右手を短パンの中に突っ込み、
そのまま、股間から盛り上がる形の
ボディランゲージで、表現している。
「俺に、ドォン!してどうする!ガッぺムカつく!ガッデム!」
分身的な存在だから、それとなく言いたい事は
理解できるが、竜司にとって、迷惑な話だ。
ヤケクソになって対抗してみるが、
焼け石に水なのは明白である。
「まぁまぁ、これから一緒に、
お姉ちゃんのおつかいに行くんだしさ。」
「やかましいわ!誰が一緒におつかいなんて...」
「えっ、おつかい?」
「そうそう♪お姉ちゃんから頼まれているんだ!」
新しい情報を知らされた事で、竜司の思考がストップした。
そして、嫌な予感がして、額から汗が流れ出す。
「...マジ?」
「うん、ジーマー!」
「なんで知っているんだよ、その言い方...」
唐突に、夢の物語が、始まりを告げる。
しかも今度は、彼一人ではなく、子連れだ。