かいぶつVol:3
「ひゃっはー!」
嬉々として叫びながら、竜司の背中に飛びついてくる
幼き頃の、もう一人のりゅうじ、
しかし、見た目は、当時の彼とのギャップがあり、
まだ、この現実を受け入れられないでいる。
「なんなんだよ...。」
唐突な状況の変化に竜司は、戸惑いの色を見せ、
グイグイと懐に入り込んでくる目の前の少年への
対応にも困っている所だ。
こういうシチュエーションになり、イベントが発生しても
聖女が一向に現れる気配がない。
「コイツとどうしろと...」
そうボヤいていると、小さなりゅうじが、反応した。
「むぅ!こいつじゃないー!」
「僕は、りゅうだー!」
「火を吹いて、上手に焼くぞー!ガオー!」
ーーどこのモンスターだよ...。
RPGゲームに登場する定番の空を飛ぶ、
ドラゴンとは程遠いモノマネを披露するが
小動物が吠えているいる様にしかみえない。
「あっ、上手に焼くといっても、こんがり肉にはしないから♪」
「俺は、どこぞのモンスターで、狩られる立場なの!?」
どうやら、竜司は、ハンター界の懸賞金に入っている様だ。
「いや、そもそもいつクエストを達成したんだよ!」
「さっき、こんしんのいちげきが入ったでしょ?」
「あれって致命傷だったのかよ!」
ある意味、人間の急所を、文字通り、突かれたワケだ。
人生でそうそうない、衝撃的な痛みを思い出すだけで、
竜司の肛門が、トラウマで疼きそうになった。
ーードラゴン族のハンターって反則じゃん...。
メタ的に、設定上、かなりのレアハンターなのではないかと
要らぬ思考がまわってしまった。
「それはそうとさ...」
「うん?」
遊びに飽きたのか、背中を降りた小さなりゅうじに、
竜司は、ようやく本題に入る。
どうもペースを乱され、子供と会話をした事がない
彼にとって、苦戦している様子だ。
「あっ、お姉ちゃんならこないよ?」
先に、聞きたかった事の質問を答えられてしまった。
どうやら、竜司の思考を読み取れる
特殊なスキルの持ち主は、サイコパスな
聖女さんだけではない様だ。
しかも、名前を言ってはいけないあの人的な
ポジションにいる人物を、目の前にいる
ドラゴン小僧は、親戚の感覚で話している。
子供だから言えるのか、それとも、
ただの怖いモノ知らずの無法者なのか、
内心、ギョッとした竜司であったが、
聖女がやって来ないという内容よりも、
なぜ、この少年は、聖女を知っているのか?
そちらの方が、彼の関心を引いていた。
「なんで...」
「よーし!!」
「ファイヤー!!」
「ブルルァアアアアアア!!!」
竜司が、呆気に取られている間、
自由奔放なりゅうじは、公園に落ちている
オモチャを発見した。
ーーおっ...♪
サッカーボールサイズの黄色い球が転がっていた。
それを拾うやいなや、彼の中でドッジボールの
ゲームが始まったのだろう。
直後、ありったけの力で、必殺技を叫びながら
野球のピッチャーの様に構え、投げた。
そして、見事に、オトナ竜司の顔面にヒットしたのだ。
ボールは宙を舞い、その間、スローモーションが流れる。