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日常Ⅲ:Vol7



「今日も長かった...。」



竜司は、両手いっぱいを天井に向けて伸ばす。



溜まっていた仕事の残業で、会社を出る頃には、

日がすっかりと落ち、夜も更けていた。



「コンビニにでも寄って...ってぇ!?」



帰りの事を考えながら、歩いていると、彼女がいた。



「デジャブ2!」



思わず、心のツッコミが声に出てしまった。



「あら、竜司くん?」



ちょうど、会社の前に交差点の信号待ちの

タイミングで、鉢合わせてしまったのだ。



「どうしたの?」



竜司の挙動不審の態度がおかしかったのか、

彼女は、微笑みながら話しかけてきた。



「いえ、外が暗くてボーとしていましたら、

目の前にいたので、ビックリしまして...。」



なんとか口実を取り繕い、その場をやり過ごそうとする。



「そうだったの、気をつけてね。」



「はい...、失礼致しました。」



「残業だったの?これから帰る予定?」



「はい、ちょっとした案件がありまして...」



ーーこの流れもなんかデジャブ!



まるで、以前の松田峰香とのやり取りをなぞるかの様な

展開に、竜司のツッコミは冴え渡っている。



ただ、この後の会話で、ルートは分岐した。



「そうだったのね、お疲れ様。」



「私も、引き継ぎの仕事で残っちゃったけど、

明日も早いし、子供も待っているしね。」



ーーそうだった。



石田ゆりかには家庭があり、

本来ならば、定時で切り上げて帰る所だが、

前任者の後始末に追われていた。



ウラで掃除をしていたのが、竜司だとすれば、

オモテにて、実務的な後処理をしていたのは、

彼女であった。



彼女も赴任早々、大きなストレスがかかっているはずだが、

それをおくびにも出さないし、感じさせない。



むしろ、日を重ねていく度に、見事なまでに適応し、

あとは、多少の雑務程度までに、清算している。



ーーこの人は...。



凄い。



竜司にとって、現実で出会った、格上の人物、

そう認識した。



うかつに言葉を出せないのも、気軽に話しかけられないのも、

あの聖女と同じ感覚であった。



「じゃあ、私はこれで。」



「はい、お疲れ様でした。」



礼儀正しく、頭を下げ、別れの挨拶を済ませた。



あっけない幕切れであったが、

君子の交わりは淡き水の如し、



彼女との何気ない会話、その間、

そしてほんのわずかな時間だった。



しかし、竜司にとっては、何時間もかけて、

上の立場にある存在、王としての在り方を

啓発された感覚があった。



ーーちょっと怖かったな...。



ツッコミに夢中で誤魔化されていたが、

彼の心中は、緊張し、手も若干、震えていた。



優しい雰囲気の中に隠された、

彼女の強さや精神性は、ホンモノだ。



現実でも、聖女の様な立場の人間が現れ、

竜司は、否応にも、変わりつつある世界を

体感する。



「もう帰って寝よ...。」



疲労感を覚え、計画を変更、まっすぐに帰宅する事を選んだ。



最後に、エクストライベントが起きたが、

これもまた、竜司の生きる世界にとって

必要な出来事だったのだろう。



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