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日常Ⅲ:Vol6



ーーガタッ!



「痛っ!」



既視感のある場面にでくわして思わず、

心のツッコミを入れた竜司、



その拍子で、身体が反射的にのけぞり、

壁に手をぶつけてしまった。



その痛みで、ツッコミのノリそのままに、声をあげてしまった。



「大丈夫!?」



驚き、振り向いた新しい上司の名前は、石田ゆりか、



肩甲骨辺りまで伸びたストレートの黒髪、

パッチリと開いた二重の目、整えられた平行眉、



スレンダー体型で、華奢にも見えるが、

足元は、浮ついていない。



大地に根ざす様に、足は床を踏み締めており、

締まった脚線美は、トレーニングの賜物を感じさせる。



肌ツヤは、同世代の女性社員と遜色なく、

アラフィフの年代には、到底見えない。



お淑やかで、大人の佇まい、松田峰香の様な、

殺気や怒気もなく、常に、余裕がある女性だ。



そして、相手と心を通わせるのがとても上手い、



それは、水商売に勤めている人や、

かまってもらおうとする幼稚な人にありがちな

下心や悪意がない。



とても綺麗な心を持っており、接する人が皆、

彼女をリスペクトした態度で、迎えている。



次第に、彼女の職場は、より活気になり、

部内移籍を希望する人も現れるほどだ。



会社の墓場から、オアシスへと変わったのだ。



現在、その中心にいる石田ゆりかと、

竜司は、初めて接点を持った。



良い話は聞いているが、実際に、

接してみないと、わからないものもある。



その機会が、突然、やってきた訳だ。



心配の眼差しで声をかけてきた彼女に対して、

竜司は、痛みに堪えながら、答える。



「だ...大丈夫です...。」



「ちょっと...ビックリして壁にぶつかっただけなので...」



手をさすりつつ、次の彼女の応対を伺っている。



「そうだったのね、ケガはない?」



「はい、大丈夫です。」



「よかった。あっもしかして、隣の部署の春田竜司くん?」



「はい、申し遅れましたが、初めまして。」



「以後、よろしくお願いします。」



「とても丁寧ね。さすが、○○さんの所にいる人ね。」



「えっ?知っているのですか?」



「同期だし。大変だったのを聞いたしね。」



どうやら、彼女の耳にも、隆二が、

松田峰香の入院見舞いの話が入ったらしい。



「彼には、よろしく言っておいてね。」



「それじゃ、お仕事頑張ってね!」



「デキる人はやっぱり違うなぁ...。」



噂に違わぬ、とても素晴らしい女性だった。



これだけスムーズに、正常なコミュニケーションが

できたのは、竜司の記憶にはない。



彼自身にも、瑕疵はあったが、

これまでの相手のクセが凄くて、

健全な会話ができなかったのだ。



普通の会話ができた事に、竜司の成長を感じられた。



「よかった...。」



そして、先ほどの相手は、とても精神的に成熟しており、

去り際の笑顔も、とても純真で、素敵に感じられた。



しばらく余韻に浸る竜司は、感嘆の声を漏らす。



夢の中での出来事は、本人だけでなく、

周りにも影響を与えるのを実感する。



いわば、竜司は、陰のヒーローであろうか。



今回のストーリーは、誰も知らないし、知る由もない。



感謝される事も、評価される事もない。



しかし、彼のみぞ知る、世界の変化。



ーーガコン!



自販機から、ジュースが出てくる。



「おっ、ラッキー!」



どうやら当たりクジをひき、もう1本追加で飲める。



「さて...行くとするか!」



当たりのジュースを持ちながら、

ゆっくりと竜司は、お気に入りの

コーヒーを味わいながら、職場へと戻っていった。



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